お昼休み

中庭

第7話

暑い…

暑い…干上がる…


連日の猛暑は日々最高気温記録を塗り替え、お昼休みのチャイムが響いても全く動くことができない。

周りでは授業から解放された高校生の歓声が響いている。


「おーい、生きてる〜⁇」

親友の弥生ちゃんがお弁当を手提げながら前の椅子に座り、顔を覗き込んだ。

「無理…いっそこのまま蒸発して消えたい…」

「だいじょぶ。その前に脱水で死ねるから。」

フォローになってるのかどうか分からない返答に突っ込む気力もない。

「いちこの席日差したっぷりだもんね。中庭に隣接してるのも考えものよね。」

「はい」と目の前に出された冷たいポカリでおでこが冷やされ、少し気分が良くなった。



気だるい身体を叱咤してお弁当を詰め込みポカリを飲んでいると、中庭の方で歓声が上がる。

目をやると、クラスの男子が園芸部の水やり用ホースを引っ張り出して水を掛け合う姿が見える。

輪の中心で、ホースを噴水よろしく掲げて一際はしゃいでるのは幼馴染。

水の雫がキラキラ跳ねて眩しい。

幼馴染の姿ががまっすぐ飛び込んできて、痛いくらい。

「いちこの犬がホースで水蒔いて遊んでるわぁー」

「弥生ちゃん、犬じゃないってば」

「じゃあ…手のかかる弟?」

何と言えばしっくりくるのか分からなくて苦笑いで誤魔化す。

と、その時、

「いっこー!」

ダダダダダ!と駆けてくる話題の人物。

日差しの暑さと彼が発するエネルギーの大きさにクラクラする。

「いっこ!お昼終わった?一緒に水遊びする??めちゃ楽しいよ!」

ベストが水に濡れて、小柄な身体から湯気が出てる。

はぁはぁ息を切らして。

男性にしては、大きい黒目がちな瞳を輝かせて。

…やっぱり犬かも。

「いい。やらない。それより、ベスト濡れてるよ?平気?」

幼馴染わんこは、あたしに断られて一瞬気落ちしても、しっとりと濡れてるベストに気がつき、あたしの方を見てニヤッと笑う。

嫌な予感。

無意識に距離を取ろうと身体を引いた瞬間、バサっと目の前がベストの濃紺に覆われ、

「いっこ!持ってて!」

と楽しげな声を残して、仲間のところに駆けていくわんこ。

や、やられたーーー!


「それ、マーキングよね?」

「断じて違う!」

頬が熱い。いや、これは今日更新した最高気温のせいだ。

お弁当を食べて元気がでたせいだ。

脱ぎ捨てられた彼の抜け殻を握りしめ、恨めしく弥生ちゃんを見るが、

「よかったわね、あの犬、遊んでても飼い主のところに戻ってくる帰巣本能はあるみたい♪」

とにっこり微笑んでビクともしない弥生ちゃん。

あたしは火照る顔を両手で隠しつつ、なぜか何度も見ている幼馴染の背中から目が離せなくなっていた。


〈scene end〉

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