Sugarな通学路
第3話
月曜朝の通学路。
桜の花も新緑にその姿を変えたころ。
俺、前田健太は宝良高校へと続く坂道をゆるゆると登っていた。
二年生への進級、クラス替えとお決まりの行事も終わり、登校する生徒の顔は皆明るい。
のんびり穏やかな天気も相まって、思わず欠伸が漏れた。
ねむ…。
一重の瞼がくっつきそうだ。
昨日の夜遅くまで家業の仕込みを手伝っていたからか、肩にずんと疲れが残っている。
後もう少し、なんか足んねーんだよなぁ。
ちなみに、家業は二代続く喫茶店。
三代目の俺の肩書きは新規商品開発担当となっているけど、地元に愛されるこじんまりとした喫茶店には大げさ感が否めない。
欠伸で滲む涙を拭いながら前方を見上げると、見知った二人組の後ろ姿。
哲とハルだ。
一年からの付き合いで、今年から同じクラスになったこともあり、今一番つるんでいる友人である。
眠いのかゆらゆら頭が揺れている背の低い方がハル、ハルが他の生徒や電柱にぶつからないように上手く誘導している背の高い方が哲だ。
ハルのやつ、まだ寝ぼけてんな…。
ハルの寝付きの良さと眠りの深さは驚くほどで。
この前の昼なんか、口の中おにぎり詰め込んだまま寝落ちしていて、腹を抱えて笑った。
多少悪戯しても起きないから面白い。
ただ、横で哲が睨むから、せいぜいほっぺたをつつくとか、仮装用眼鏡をかけて携帯で撮るとか、そんな程度だけど。
そういえばあの画像、まだハルに送ってなかったな。
ポケットから携帯を取り出し数回のタップで画像を送る。
液晶から顔を上げると、あっちにふらふらこっちにゆらゆらしているハルに業を煮やし、ハルの左手を取り上げ自分の右腕にからませる哲が見えた。
まるで漫画の集中線のように周囲にいる生徒の視線が二人に集まる。
その様子に俺は嘆息をついた。
小さい頃からの幼馴染だという二人は、時々周囲の人間をぎょっとさせるようなことをやらかす。
もちろん、寝ぼけたハルが危なっかしいのは知ってるし、何かに掴まらせた方が楽だという哲の言い分も分かる。
ただな、他人から見りゃ、お前ら朝から寄り添っていちゃいちゃしてる登校に邪魔なはた迷惑カップルだからな……!!!!
彼氏彼女のいない生徒達には目の毒だからやめろと、友人として心優しい忠告をしてやる。
そう決心すると俺は坂道を登る足を早める。
断じて独り身の僻みじゃない。
「ハル、哲、おっす」
「あふ……マエケン?おは…」
「おう」
ハルの右手側から近づき挨拶すると、ぽやぼやしたハルと哲のあっさりした挨拶が返ってくる。
くしくしと目をこするハルは小動物じみていて可愛い。
「ハールー?」
「ん…だいじょぶ…」
目が覚めてきたのか自分から哲の腕を離したハルに、満足する俺。
つんつんと袖を引かれ振り返ると、色素の薄いハルがその薄茶色の瞳でじぃっとこっちを見つめている。
なんだ?
「ねぇマエケン、今日の数学予習してきた?昨日眠くて…」
と尋ねてくるハル。
あー数学の予習か。
今日の日付を思い出して俺は唸った。
数学の教師はいつも日付を出席番号に当てはめて授業中設問を解かせる。
例えば4月7日なら、出席番号が4番か7番か3番が当たるというように。
今日はハルが当たりそうな数字だよな。
ただ、自分の出席番号からは遠かったのでぶっちゃけノーマークだ。
「あーごめん、オレもやってな」
「ハル、教室着いたら俺の写せ」
俺の言葉に被せるように口を出す哲。
確かに、哲なら数学得意だしノートを写すならぴったりだ。
被せ気味の物言いにちょっとイラッとしたものの一人頷く俺。
そんな俺の隣で、ハルはその瞳を驚きに見開いている。
ん?このハルの反応って……?
「へっ⁈だって哲、昨日ずっと…」
「ハルの寝顔見ながらだから捗った」
「……ばっ…!」
馬鹿という言葉は、ハルの桃色に染まった頬の中に消える。
そんなハルを見て満足そうに笑う哲。
おーまーえーらーっ!
一体全体昨日どこで何してたんだっつーうの!!
口をパクパクさせて結局黙り込むハルの様子に頭痛を覚えた俺。
朝から砂糖な会話してんじゃねーよ!この万年バカップルが!!
…周りの皆さますみません。
俺の友人達は矯正不可能なレベルまで達した、とことん甘々な幼馴染みたいです。
〈Scene end〉
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