第2話
「弓おはよー…って、あんたそれ虫歯⁈ほっぺためっちゃ腫れてるよ⁉︎大丈夫?」
問題ありません。自分で抓り過ぎただけです。
間宮くん、朝からかっこよかったなー。白のパーカーめっちゃ似合ってたなー。
例えばお日様が眩しいお昼休みに、校庭でサッカーボールと戯れてる間宮くんが、近くで日向ぼっこしてるあたしに向かって、
『森崎ーちょっとコレ持っててー』
ってあのパーカーをあたしに向かって放り投げて。
あたしは、
『ちょっとー‼︎』
なんて照れ隠しの文句言って。
赤くなった顔をパーカーで隠したら間宮くんの爽やかな香りがふあんと香って。
「いひひひひ…」
「弓、あんた朝からその爆裂妄想やめなさいよ…」
危ないから帰ってきなさいと、冷静すぎる幼馴染の言葉に現実に戻るわたし。
「杏ちゃん‼︎ね、ね、大変‼︎ヤバイよ‼︎あたしお昼休みにレモンリキュール買い出しに行ったほうがいいかな⁉︎どうしよう?」
見慣れた教室に今日初めて杏ちゃんの姿を認め、かぶりつかんばかりにまくしたてるあたしに幼馴染の額に青筋が立った。
ピアニストを目指す細くて力強い指があたしの頬をギリギリと掴み、クールビューティーと呼ばれる麗しいかんばせに底冷えの笑みを浮かべる杏ちゃん。
「朝のご挨拶もないわよねぇー弓ー?このお口はおはようも言えないのかしら?」
「ぁんちゃん…お、おはおうございまふ……」
痛い痛い痛い‼︎
さっきまで自分でも抓ってたから余計に痛いー‼︎
杏ちゃん、あたしの頬は鍵盤より壊れやすいよー。
涙目になりながら、必死に朝のご挨拶。
「おはよう、弓。気持ちいい朝ね。」
花が綻ぶように微笑む美少女は、あっさりあたしの頬から手を離すと、優雅に前の席に着席した。
うう…くるみ割り人形みたいに顎が外れちゃったんじゃないかな…⁉︎
顎が外れてないか心配で口をパクパクしていると、一つ挟んで斜め前の机に座っている間宮くんと目が合う。
(だいじょぶ?)
爆笑を必死に噛み殺しながら自分の顎を指して口パクで心配してくれる。
(だだだだだいじょぶ‼︎‼︎)
女子高校生姿のくるみ割り人形は、鼻息荒く首を縦に降り大きくパクパクし返す。
途端に間宮くんは、白のパーカーで口を覆って机に突っ伏した。
きっと、あの袖の下で大爆笑しているに違いない。
だって、肩が震えて左手がお腹押さえてるもの。しかも全然収まる気配がない。
またもややってしまった…。
「弓、あなたいつの間に仲良くなったの?」
間宮くんの一連の行動が目に入ったのだろう。
杏ちゃんが不思議そうに声を潜めて聞いてくる。
だよね、あたしと間宮くんなんて接点どこにもないもんね。
始業のベルとともに担任の先生が入ってきたのでこっそりレモンカスタードケーキのくだりを手紙で伝える。
その後、お昼休みの開始と共に、あたしはにっこり微笑む幼馴染に肩から担がれんばかりに引っ張り出され、事の次第を詳細にご報告させていただいたのだった。
〈scene end〉
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます