第2話 アナスター

僕たちは夢を見た。

彼女が作り笑いで微笑んだ。


僕は夢の世界で初めて「私は今が1番幸せだから、はよ帰れや」と彼女が普段口にしない言葉を聞けたと、意外な一面を知れた。


///


2日目 7:12 帝聖門 食堂


「おはよう、諸君。第127代目 帝アナスタシアの会議を開こう」


昨日に続き、集まりの場として、使われるのは長き渡っていろんな人々に使用された帝食堂。帝食堂の中心部に生えているのが、離香半島特有の樹木であり、樹齢は約230年と帝食堂ができる約30年前から生き続けている。

麻生は6人掛けのテーブルに腰を下ろす。


「まずは、神木に触れてもらおう」


僕を含める4人は「はーい」と素直に宿主の麻生さんの言うことを聞き、神木にゆっくり手を伸ばす。

海斗たちは一夜で成架を助ける覚悟を、麻生が成架を救える最速道だと言うことを判断し、今、決意してここにいる。麻生に従うと決めた以上、神木に触らないといけないのだが、流石に230年の歴史を持つ神木にそう簡単に触れていいのかと僕たちは深い疑問の念を抱く。


僕と唐紅,前川の手は神木に触れる直前に止まる。僕たちは神木が放つ禍々しい謎のオーラに気づく。これに触れれば元の日常に戻ってくれないような気がする。そんな中、一人の少年は迷いなく神木に触れた。


「わあ。なんか強くなった気分」


海斗は肩凝りを気にするように、左手を右肩に当てて、右腕をブンブンと振り回す。


「そうだ。君は帝様のお力を授かり、強くなった」


「能力はみんなが触ったら、伝えるよ」と麻生は呑気ながら、全員が触るのを待つ。


「早く早く」と海斗が急かしてくれると前川が神木に触れ、両手の掌をグー、パーと繰り返した。海斗と同じくとても感じたことのないような気分になった。


 僕はこれ以上ここで日和っても成架は救えないと思い、前川に続いて神木に手を触れる。その瞬間にパズルのピースのようなものが脳内に埋め込まれていくことが見えるようになる。


(なんだこれは?まるで脳が一から作り込まれていく)


ピースが全て脳に埋め込まれると、僕は神木から手を離してしまい、見えていたはずのピースが見えなくなり、あとは唐紅と、唐紅の方を見てみると心配そうに僕を見つめてくる。


「どうしたの?大丈夫?すっごい顔真っ青だったよ?」


僕はそんな顔をしていたのかと、唐紅に心配をかけてしまったが、そんなことより、今の感覚はものすっげぇ気持ちいい感覚だった。それに何か違和感も感じた。


「ああ。大丈夫だ。それより大丈夫だから、唐紅も神木に触って」


「うん。わかった」


唐紅の表情は好奇心に溢れた少女そのものであり、なぜかとても羨ましかった。

全員が神木に手を触れると麻生はニヤリとニヤつき説明をし始める。


「君たちは今日からアナスタシアとなり、トラッカーを倒してもらう」


麻生は6人掛けのテーブルから立ち上がり、神木へと歩く。


「トラッカーとは、彼らはこの離香半島の住民に悪さをしている者。君たちと同じく5人だね」


麻生は神木に右手を着き、もたれかかる。


「成架くんはそのトラッカーに悪さをされて、現状のようになっている」


ほぅと、何かに気づいた前川がメガネのブリッジを2本の右指で持ち上げて質問を述べる。そのメガネは光沢し、目は見えなかった。


「悪さとは俺たちがゲットした能力みたいな者か?」


「ああ、そうとも」


麻生は前川に「正解!」と指を刺し、説明を再開する。

唐紅は不満になったのか僕の右腕に両腕を絡めてきた。


「彼らも君たちと同じように術を持っている。ちなみに君らのはアナスター。彼らのはトラスター。そして、重要なのはここからだ。相手は5人に対して、君たちは4人。相手に先手を取られている以上、慎重に動く必要があるし、アナスターには発動条件がある。それを次のアタックまでに知っておく必要がある」


帝食堂の空気が麻生の迫力と神木に押し倒されていく中、二人は対抗する。


「じゃあ、俺たちはアナスターの効果と発動条件を把握できたから、もう行くわ」


「ああ!先手必勝されたなら、次のアタックは先手必勝に決まってるぜ!」


二人はおバカコンビと言わらているが、その器用さと運動神経という圧倒的才能で海斗と前川はアナスターを完璧に理解し、帝聖門から飛び出していった。


「おー。頼もしい二人だね」


唐紅は少し焦っているが、こうなってしまった以上はあの二人は止められないので、無事に帰ってくることを祈ろう。


「それで麻生さん。相手は5人なんだよね?」


麻生は体勢を崩さずにコクコクと頷く。  


「では確認したいことがある。相手も人間であると言うこと、アナスタシアとトラッカーは限りもなく近い者」


「ああ、そうさ」


「何がトラッカーの目的かは知らないが、おそらく相手も俺たち全員を消そうとしている。そうだね?」


「ははは。なんて君は頭がいい。ああ、そうだよ。トラッカーも君たちを潰そうとしている。だって彼らもそうしないといけないわけがあるからね。それより、大丈夫かい?」


「先走ったあいつらなら、大丈夫だ。夜になるまでには帰ってくるよ」


先手を仕返しにいった僕たちの行動にただ一人、不安を感じる者がいた。


///


2日目 17:00 帝聖門 帝食堂


あれから僕と唐紅はアナスターの効果を確かめるべく発動条件を一緒に探していたが、一向に見つからず、集合の時間になりそうだったので、アナスターはまた明日にし、二人の帰りを待つことにした。


数分が経ち。ジリジリと帝門が開く古臭い音が鳴る。


「よう」「ただいま」と慣れ聞いた声が聞こえてきたことに安堵のため息を漏らす。


「で、左手で持っているそいつは?」


見た感じは人間だが、トラッカーなのだろうか?二人とも一人ずつ左手で持っていた。


「よくぞ聞いてくれました。翔平くん。こいつらは俺と前川でぶっ倒したトラッカーです」


「先手必勝」と前川の顔面に習字されており、海斗は少しキモいながらもテヘペロ状態だった。


「おめでとう。お二人共。彼らが朝に言ったトラッカーだ」


「これぐらい俺たちにかかれば朝飯前だ」と海斗は余裕をぶっこいて自慢をする。


「レベル7と3。初日にしちゃあ、いい結果さ。でも、3は二人かかりで7は完全に不意打ちだったからね。実力とは言えないね」


「なんだと!?」と海斗が喧嘩越しに麻生を問い詰めようとするが、前川が暴走を止め、理由を知るために問いかける。


「それはね。君たちは運が悪くアナスターの最高レベルが6。その他は4以下とレベル時点で負けている。相手もレベル7が負けるなんて思ってもいなかったようだね。だから、君たち二人だけで倒せた」


「だから、調子に乗るなよ?ということか」


「ああ、それに君たちは二人のアナスターはレベル4で戦闘的なもので、おまけに君たちは戦闘の才能がある。リーダーくんのアナスターもレベル6で戦闘向けのものではないのだが、その頭脳がある。問題は唐紅くんのアナスターだ。彼女のレベルは1で完全に戦闘に使えない単体ではゴミ。加えて相手はレベル9,5,4の戦闘向けのトラスターが残っている。実質、高レベルトラスター3vs低レベルアナスター3の戦い。真向勝負じゃまず勝ち目がないし、集団行動された時点でも今の君たちじゃ詰みだ」


唐紅のアナスターがゴミと言われたことなら対して、海斗はガチギレし、麻生をぶん殴ろうと反射で動くかが、ギリギリで海斗をぶん殴り止める。


「イタッ…何するんだ!ボケェ!」


「ボケェ!はおまえだ。今は麻生の話を聞くときだ。私情で何もかも動くな!」


海斗はクソと黙り込み、前川はどうすれば勝てるのかを質問する。


「じゃあ、相手が集団行動に移る前にまた予想外の奇襲をすれば良いということか?」


「いや、そうことでもない。相手はもう集団行動をしてくるだろう。だから、現代階ではもう詰んでいる」


何かに期待する麻生はニヤつきながら、僕たちの反応を待ち構えている。


海斗は運動はできるが、頭は働かない。唐紅は麻生のゴミという言葉に無能感を刷り込まれ、引きずる。

僕と前川でこの"アナ"を探し出すんだ!

何がピースだ?と考え始めるが、思い浮かばない。

僕がふと麻生に何かヒントがないかと様子を伺うと、麻生は僕たちが絶望,困惑,思考することを面白そうに神木に手を触れながら、楽しんでいた。


そういえば、麻生が何かを説明するときはいつも神木に触れている………?

確か僕が脳にピースが埋め込まれていくと感じたときは一回………その一回は神木に触れていたときにだけ起きていた。


(そういうことか!?)


僕は"アナ"をアナスタシアを見つけ出した。


「ははは」


僕はおかしな笑いをしながら、神木に右手を着く。


再び、脳にピースが埋まれ込まれていくことが見えるようになった。


(ああ、これだよ。これがこうだからこうなるんだ)


僕が神木に触れた瞬間、麻生のニヤリとした表情は一気に崩れ去り、「は!は!は!」と大声で笑い始める。


「流石だよ!!君が初めてだ!!さあ、君の推理を始めたまえ!!」


「言われなくてもやる予定だ。まず、俺たちの発動条件は至ってシンプルだった。それはアナスターを手にしたあの感覚だ。あの感覚を手に入れたとき、僕たちは何をしていた?」


僕の問いかけに二人は口を開く。


「俺は両手をグーとパーで繰り返したら、アナスターいや未来型念動力を使える」


「右腕をバンバン回したら、右の拳がダイヤモンドみたいに硬くなったぜ」


「ああ、海斗と前川はあのとき、発動条件がこれだ、ということと、感触で自分のアナスターの効果を予測して、使えるようになった。実際僕も神木に触れている間だけ、アナスターが使えている。そして、今わかった。アナスターは進化する。麻生さん、これが俺たちの勝ち筋だね?」


またもや麻生は「は!は!は!」と大声で笑い、僕を讃えて賞賛する。


「でも、一つ勘違いがある。それは君たちが知らないだけで、発動条件は別にもあり、他の効果もある。それを知れば、更なる進化ができ、アナスターのレベルは一気に上がる。これが君たちの勝ち筋であり、勝機と言えるだろう」


僕たちのアナスタシアは今、始まり。捕まったトラッカー二人の行方は誰一人知ることがなくなった。

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