第3話 霧の向こうの彼へ

アナスタシアvsトラッカー


それは127年前からあり、この離香半島では127年の戦いが繰り返されている。

僕はそこに何かの鍵が眠っていると確信する。


///


「霧の向こうの彼には気をつけて」  


成架は夢の中でそう告げた。


3日目 7:24 帝聖門 帝食堂


全員揃い、座っていた椅子から立つ。


麻生に確かめることがある。


僕は昨日と同様に神木に掌を触れる。

脳にピースが埋れ込まれいく中、一つの質問が生まれる。


「アナスタシアvsトラッカー。それは200年前からあり、この離香半島では127年の戦いが繰り返されている。なら、この島に何かヒントはあるはずでは?」


ははは、とふざけ笑いをし、麻生も神木へと手をつく。


(そこに何かの鍵が眠っているはずだ)


決して軽くない口が開き、僕たちを地獄へと叩きつようもする笑みをする麻生。


「ああ、そうだ。まず、間違えを訂正しよう。この戦いは200年前ではなく、127年前から続いているいわば、この半島の伝統。それに君たちは巻き込まれた」


麻生は無理に話題を変えようと「これは伝統だ」と僕たちに偽の情報を刷り込ませようとする。


「いや、そんな伝統はネットや書物に何一つも記されていなかった。だから、そんな伝統なんてない」


ははは、と一度、神木から手を離し、微笑と拍手をし、僕を褒めたえる。

再び神木に手をつけると、重い口が開いた。


「昔に君みたいな人がいたよ。それで、なぜ、情報がないのか。それは戦いで生き残った人全員の記憶がないためだよ」


やはりそうだったか。調べ上げた口コミには全て主旨がバラバラで、おかしいなものばかりだった。


麻生への質問タイムは終わり。僕たちは朝食を済ませて、今後の作戦を立てる。


「そういえば、2人とも。昨日、離香半島の住民を見たか?」


二人は同時に「ノー」と答える。


「じゃあ、残りトラッカーの能力は見たか?」


また二人は同時に「ノー」と答える。


僕はうーんと顎に手を当てて考えていると、帝食堂から出ようとする麻生がポツンと呟いた。


「そういえば、この島にはたくさんの石碑があったな」


僕はいち早くこの何気ない独り言に重要性を見出した。


石碑なら、アナスタシアとトラッカーに纏わるヒントがあるかもしれない。


僕は二人にアナスターの他の発動条件を見つけること,唐紅がどこかに行かないか見張っておくようにと伝え、予め調べてきたノートを見返しに自室へとダッシュする。


あの二人はバカなところもあるが、頭の回転は早い。だから、もう勝手に敵を倒しに行こうなんて考えないはず。唐紅はあの二人に任せるとして、問題は石碑がどこにいるかだ。


僕たちは離香半島に来る前にこの島に対するあらゆることを調べてきた。そのわけとしては、自由研究の序盤であるネタ決めに困らないようにするためだ。


(これもギリギリまで決まらずにこっちに決めようと言う話になっている)


自室に辿り着き、鞄に手を入れて、探り始めるが、ノートらしきものもついでに持ってきたはずのペンもない。


僕はないことに焦ることもなく、冷静に対処する。初日。唐紅と一緒に成架を探しに行ったときに確か船着場に置いてきたことを覚えていただ。


今から調べても良いのだが、事前の調べで、まずスマホは圏外な上、図書館や資料館などもないということは把握済み。


僕は置いてきてしまったノートとついでにペンを回収しに行くべく、唐紅は前川に託して、海斗を連れて船着場に向かうことにした。


3日目 9:05 離香港 船着場


来たときはそれほど気にしていなかったいや、他のことに意識が奪われて気づいていなかったが、過疎地域にも関わらず、船着場はしっかりと整備されており、特に目立ったシミなどもなかった。


「言うところは床が抜けやすいで危険だと思われがちだが、ここは整備され過ぎてて、床が滑りやすそうで危険だな」


「ああ、俺も初日に滑りかけたぜ」


海斗は僕の独り言に対して、乗ってくれて、更には自身の醜態をも晒した。


僕はいけないいけないと心の中に響き渡らせて、海斗と共に辺りを捜索し始める。


「海斗は主に奥の方を。僕は手前の方を探す」


「りょーかい」


とは言ったもののほとんどが、更地状態でありそう時間は掛からなかった。


人通り捜索し終わり、ノートは見つからず、諦めようとしていたそのとき、海斗が船着場から少し離れたとある建物に指を指す。


「あの建物怪しくね?」


突然意味不明なことをいい始める海斗。

僕は呆れているかのような口癖で喋る。


「何を言ってるんだか。来る最中にも話したけど、ノートは地面に置きっぱなし。勝手に建物の中に入っていくわけないだろ?」


「普通。落とし物があれば、管理室とか交番に届けられるし、この地域じゃノートごとき盗む人も捨てる心がある人もいないだろ。だから、あそこの管理室に届けられているのかもしれない」


「だから、見に行く価値はあると?」


僕の質問に海斗はコクンコクンと首を頷き、僕の回答もなく、建物へ向かう。


建物も船着場同様に綺麗な壁を保ち、まるで都会の港と言われても間違えられないような品物だ。


海斗は意思を曲げることは決してないとわかっている僕はしょうがなく、少しの希望を持って、管理室へと歩みを始める。


(ん?そういえば、なんでここが管理室だとわかるんだ?)


僕は一度、立ち止まり、背にした船着場をもう一度、目視をすると、はっきりと管理室と書かれた老朽化した建物を見つける。


「っ!?」


そして、さっきまでツルツルであった船着場の床が今にも抜け落ちそうなぐらいに腐り果てていた。


(どういうことだ!?さっきまでは物新しかったのに!?)


その次の瞬間、海斗が歩いて向かった綺麗な建物の方から男性の声と思われる悲鳴がし、電柱に止まっていた何かが一斉にバサッと飛び羽ばたいた。


「海斗!!」


僕はその悲鳴が海斗のものだと、すぐに判断し、悲鳴がした建物へと走り出す。

さっきまで綺麗だった建物も酷く老朽化されている。船着場も荒れ果てている。


(この一瞬で何が起きている!?)


僕が建物に着いたときには遅かった。

扉を開いたその先には頭をフードで隠した小柄な子と倒れている海斗がいた。


「な!?まっ!」


僕が言葉を放った瞬間、我に帰ったかのようにその子はフードを更に深く被り、建物の裏口から走り去っていった。


寸時にここに留まるのは危険だと判断した僕は一度、帝聖門に帰ることを判断し、成架と同じ状態になってしまった海斗をおんぶして、なるべく早く帰宅した。


///


3日目 9:48 帝聖門 帝食堂


「ほう」


僕はみんなを、とは言っても僕,前川,唐紅の三人だけなのだが………を緊急で呼び出し、事情を説明すると、前川は表情を変えることなく、仮説を唱えた。


「翔平と海斗が過去または未来にタイムリープをしたもしくは相手のトラスターによって見せさせられた幻覚のどちらかで、海斗がやられたときに人を見た、てことは後者の方が可能性としては高い。それで仮にその子がトラッカーとすれば、9ではなく、5,4の可能性が高い。そして、海斗を失ったことはあまりにもデカい。唯一の俺たちの盾が消えたことにより、これからの作戦に影響してくるだろう」


「ああ、すまない。俺のミスでこうなった………」


僕は落ち度を深く反省し、海斗を建物に一人で行かせてしまったことにものすごく後悔をした。

戦犯である僕に前川は更に追い討ちを畳み掛ける。


「ああ、そうさ。でも、建物を見つけたときから、海斗の言葉としてはおかしい。別々で捜索しているときに相手のトラスターにやられたに違いがない。それにしても、"ノート"ごときに仲間一人を犠牲にした挙句。ノートも見つけられないなんて、失態中の失態だ」


僕はそれに反論できるわけもなく、このままこの空間が終わると思っていた。


「喧嘩はダメ!!!私も私で何も出来ないから、何も言うことはできないけど。ノートを取りに行こう、てなったのは全会一致でしょ?それに仮に前川くんが翔平の代わりにノートを探しに行ったとしても、海斗を止められたの?」


「………いや」


苛立ちと不満に感情を左右されていた前川は少し悩んでから答えた。


「もう一回、翔平の気持ちを考えてから喋って?」


唐紅はポロッと流れる雫を指で拭き取る。


これまで、何をしてもアナスターを発動出来なかった唐紅が、それに対し、かなり落ちんでいた唐紅が引き裂けそうになった僕たちの仲を繋ぎ止めてくれたことに僕は感謝した。


この後、お互いに謝り、更に人数が減った中でどうするかを決めた。


///


4日目 14:24 離香古道


昨日、しつこく麻生に石碑がどこにあるのかを唐紅が聞いた結果、この島には五つの石碑があることを聞き出すことに成功。


その翌日である4日目に三人で行こうと僕と前川が提案するが、唐紅は足手纏いになる,アナスターの発動条件を探す,二人の面倒を見るという三つの理由で帝聖門に残り、僕たち二人で五つの石碑を周ることになった。


4日目、僕たちは順調に午前中に二つ,午後に二つの石碑を周りきり。最後の石碑に差しあたろうとしているところだ。


周った石碑にはそれぞれ違う言葉が記されていた。


'霧を見つけよ'

'彼に話しかけよ'

'御神神社を探せ'

'御神木に触れよ'


それぞれ麻生に言われた順番に周り、そう書かれていたことを頭に刻んでいる。


(それにしてもどういうことだ?)


僕たちは最後の石碑に期待しながら、最後の石碑がある離香古道の先にある御神崖へと生い茂った緑に囲まれ、蝉の鳴き声が嫌になる程、入り込みながらも辿り着く。


最後の石碑を目にした僕たちにひと吹きの風がサラリと耳を掠めた。


お互いが沈黙する中、二人は最後の石碑の文字を読む。


'それらはするな'


文字は続く。

眩しい太陽は曇りに遮れ、辺り一面が霧に覆われる。


'静かになるな'

'動け'

'逃げろ'

'話せ"


静かにしろ,動くな,逃げるな,話すな


霧は一向に濃くなっていく。気づけば前川が見えなくなるぐらいになっていた。


霧を見つけるな,彼に話すな,御神神社を探すな,御神木に触れるな


今、見えるのは唯一の石碑。

書いてある文字が変わった。 


'彼は遠い'

'逃げろ'


彼は近くにいる,逃げるな


濃い霧が辺りを集会する。


'目の前にいる'

'話せ'


後ろにいる,話すな


文字が変わることにも、晴天だった日にいきなり霧かかったのにも、一切動揺もしなかった。


僕の耳元で悪魔の囁き。


「やつら全員を消すことができる。だから、契約しろ。契約すれば、君はこの地獄から解放される」


石碑に新たな文字が表示される。


'契約するな'


(今は喋っていいときなのか?)


(石碑の言う通りにするのなら、ここで彼と契約しなければならないということか?)


僕は先走り口が開きそうになったとき、「霧の向こうの彼に気をつけて」と成架の助言を思い出し、我に帰る。


(本当に契約するべきなのか?)


石碑の矛盾が生まれている。

本当は契約しない方が良いと思っている。

だけど、契約しなきゃいけないとも思っている。だから、僕はこうすることにした。


声に出さずに、動かずに、ただ心の中で俺は彼と契約する


(契約成立だ)


いつの間にか真っ暗になっていた。さっきまで聞こえていたはずのセミの声も聞こえなかった。さっきまであったはずの石碑も消えていた。さっきまでいたはずの前川も消えていた。






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