瞑想のアナスタシア

バナナ連合会

第1話 アナスタシア

地球温暖化が加速する中、不思議な島がただ一つ存在した。


「きっっったぞ!!!」


「相変わらず、うるさいよ」


中学校生活最後の夏、僕たちは自由研究の課題として、南の島、離香半島へとやってきていた。


不思議な島の気候は何があっても、晴れである。雨や曇りなどは一切ならない。そんな珍しい島に外国人観客の人気はもちろんなかった。それを僕たちが調べ上げるためにこの島にやってきたのだ。


///


僕たちは1時間の議論により、滞在する場所が離香島に決まった。


「いやー、全開一致だったのは、神ってるよね」


「ああ、そうだな。それだけは絶対ないと思っていたからな。なんせ俺たちは絶対に意見が合わない五人組として、有名だし」


「神様が私たちの最後の夏に運命を与えたのよ」


容姿は平均より上で行動の可愛さは莫大に高いため、学年中ではちょっとした人気が芽生えてきているツインテールが特徴的なメガネをかけた丹藤 唐紅 (たんとう とうべ)が話を作る。昔は外に出る,人のコミュニティケーションが苦手であった彼女。そのため、ずっと家にいてテトリスゲームでは全国21位を取ったこともあるゲーマーだった。だから、僕たちが中2のときに外のへと連れ出し、今の彼女がある。


唐紅の話しに乗るツーブロックで目つきが良くメガネをかける美少年 前川 佐郎 (まえがわ さろう)。ちなみに名前は彼のコンプレックスらしく僕たちの中では唯一彼を苗字で呼んでいる。


神を信じる少女は永瀬 成架 (ながせ せいか)。僕らの学校ではその豊富な胸でトップクラスの容姿を誇り、誰にでも優しい性格で、全校生徒からの絶大な信頼と人気を得ている。放送部では、毎週火,木でお昼の放送をしている。おまけにたくさんの生徒からの相談も受けているため、彼女の顔を知らない人はほぼいない。それで最近の悩みは下心のある目つきで見られることが怖いらしい。


都心から離香半島に向かう船は2週間に一本しかない。だから、滞在する期間も時間も別れることもない。過疎化していく離香半島には、滞在する家も民家も街一つ分しかないので、本当に意見が別れることがなかった。


「あ!見て!イルカがついてきているよ!」


「おー、本当だ。美味しそうだな」


「なんで食う気満々なんだよ。そこは可愛いなあが主流だろ」


「いやいや。こいつにそんなこと言っても無駄だろ」


イルカを食べる気満々でもあるのが、スポーツの名門高校からの入門が今年の春に決まった全国屈指のラグビープレイヤー米田 海斗 (よねだ かいと)。容姿は至って普通だが、誰でもあっても見捨てないという王道主人公の器を持っているため、ラグビー部員からの信頼が厚く、そういう性格もあってか2年生のときには全国1位に輝いている。ちなみに自由奔放で気合いでどうにかなる精神から部員や学年中から海斗の義母とも呼ばれている前川も手を焼いている。


気持ち良い朝の海風に晒される中、僕たちは美しい海と僕たちについてくる一頭のイルカに見惚れていた。


イルカなんて何年ぶりに見るのだろう。


「あれ?イルカの額に深い傷があるよ」


「あ、本当だ」


成架が船の物新しい柵を飛び出しそうに身体を乗り出し、イルカの額に指を指す。唐紅は物新しい柵に右腕を置き、もたれかかる。

 

観光客が滅多に行かない。行ったとしても、島の調査もしくはその島に住む親族ぐらいの行き来する船なのに、物新しいな。と不思議に思ったが、きっと、老朽化していたのだから、変えたのだろう。で終わった。


「あの傷、治してあげたいね…」


「海に潜るか?」


「いや、医療キットとかダイビングスーツとかないのに、どうやって治しに行くん?」


「そこは気合いだろ」


毎回、気合いでどうにかする海斗に正論で海斗の暴走を止める係である前川のお笑い劇が始まる。


「気合いはお前みたいなバカな運動部が言える言葉であり、成架みたいな美術部が言える言葉ではない」


「美術部も気合いでどうにかなるだろ」


「気合いでどうにもならないことはどうにもならない」


「じゃあ…イルカを助けられない、てこと…?」


気合いマンを正論で止めていた前川の言葉に残念がる成架が勝敗を決める発言をする。これにより、海斗の勝利が決まり、前川の惨敗が決まった。


前川はドヤ顔を決めない海斗に惨敗したことを皮肉と思い、嘆いている。彼は魂のない抜け殻のように手と膝を着き始める。


「成架。惨敗して嘆いている前川の代理で言う。それは不可能に近い。まず、前川の言う通り、僕たちは道具を一切持っていないし、離香半島に着くまで、あと、30分もかかる。それまで、イルカが着いて来ると思うか?」


成架はなんでだろう?と船内をうろうろし、結論を出すため、一度止まって、顎に手を当て目線を上げる。


イルカが船についてくるわけは主に楽をして泳ぐためだと言われているが、仮にそうだとしたら、沖に近づくに連れ、船から離れていく可能性が高い。そうなると、深い傷を治したいという成架の願いは叶わなくなる。


僕はどうすれば、イルカの深い傷を治せるのかを考え始めるが、限りなく可能性が低いため、考えるのをやめた。


成果は何かを思いつき、目を大きく開き右手の人差し指を立たせた。


「あ!銃を持ってきて、弾を絆創膏にして、撃つ!」


「どうやって、非現実的なことを思い付くんだ?」


「だって、そうするしかないじゃん」


流石に海に飛び込むとかイルカを船内に持ち上げるとかのワンチャンできるぶっ壊れたことを言うのではなく、成架がちゃんと非現実的なことを言ってくれたことに救いを感じる。


僕はやれやれとし、ため息をつく。


「できるならやれ」


僕はそういうと、成架はできないやてへぺろとあざとい笑みをし、イルカの深い傷を治してあげることを断念した。


長い長い船旅が終わり、額に深い傷を持ったイルカは15分前に消えていた。


海斗が一番乗りと言わんばかりに好奇心旺盛にはしゃぎ離香半島へと上陸する。それに続き、ずるいずるいと言い、成架が上陸。

早速どこかに行ってしまった海斗を面倒を見ている義母のように前川が船内から走り出し、後を追う。


「おい!17時までには寮に来いよ!」


どっかに行ってしまう2人に聞こえるボリュームで約束を言うと、前川は空高くに右手でグッと、了解のポーズを取る。成架は「はーい」と言ってウキウキと鼻歌を歌いながら、島の商店街の方へと歩き始めた。


僕は唐紅を見張っていようと、振り返ろうとしたとき、


「君がこの中のリーダーか」


その声のシルエットは髪の毛が全て抜け、目の下にはクマができており、目つきが悪かった。

腰に両手をついている,猫背になっているということで70は超えているだろうと予測する。 


そして、何よりもその男性の老人が僕がリーダーであることを一発で見抜いたことだ。僕のそのことに唖然とし、一瞬口が動かなかった。


「え?あ、はい。一応、そうなっていますけど。どうかしましたか?」


「わしからの警告じゃ。この島では1人でいない方がいい。だから、あのお嬢ちゃんのところへ行った方がいい」


すると、男性の老人は「帰りたくなったら、また1週間後のこの時間に来るから待っておけ」とだけ言い残し、出航して行った。


船着場が静かに戻る。


あの水先人は結局、誰一人乗せていくことなく帰っていった。


僕は本当にこの島は人気がないんだなと少しワクワクしてきた。

これは自由研究の課題になるのでは!?と思ったからだ。

早速持ってきた離香ノートとペンを取り出し、僕の推理を書き始めようとノートを開いた。


「ちょっと待て。成架が心配だからさ。見に行こう」


「なんでだ?成架が向かった場所はおそらく商店街だぞ?しかも、前もって島全体の地形は調べて来たし、頼りがいのある成架が道とか間違えるわけもない」


「いやそういうことじゃなくて、私にはあのおじいさんが嘘をついているようには見えなかった。早く成架のところへ行った方がいい気がするの」


コミュニティケーションが増えた唐紅だが、それでもなお普段からあまり意見を言わないため、僕は持っていたペンを落として驚いた。


「お、おお、わかった。唐紅、行こう」


唐紅の勇気ある意見に僕は感激し、彼女を信じて成架を探すことに決めた。


僕たちは船着場にペンとノートを置き去りにしたまま、商店街へと全力で歩き始めた。


商店街は船着場から歩いて約5分。走れば成架に追いつかないことはない。だが、それは成架が歩いていたときの話しであり、きっと彼女は小走りで向かっていった。


これはいっちゃダメなのだが、唐紅はずっと家にいたため、身体的な体力がない。だから、僕が走れるとしても、唐紅が走れないのなら、僕も走れない。急ごうと思っても急がないのだ。なぜなら、僕たちは老人の言葉を信じることになると、別れられないからだ。海斗と前川は体力があり、足の速さがほぼ一緒なこともあってほかっておいても前川がいる限り大丈夫だが、僕たちは大丈夫ではなかった。


唐紅の話を信じて成架のところへ向かうのはいいことなのだが、これだとマズイぞ………


ペース的に成架との差は約5分になる。この約5分がどういう影響をもたらすのか怖いところである。できる限り唐紅を置き去りにしないペースで歩き、商店街へと向かった。


しかし、その約5分が僕たちの運命を変えた。


///


17:00 帝聖門 (みかどせいもん)


帝聖門。200年にも渡る長き歴史を持つ寮であり、かつての天皇陛下が一度、訪れたところでもある。


そんな場所に1番訪れたかったであろう成架が、意識不明の状態で倒れている。救急に連絡を入れたのだが、繋がらなかった。地元の人を探しても見つからなかった。寮の人に頼んで救急を呼んでもらおうとしたら、なぜか話し合いをすることになって、僕たちはパニックになっている。


「よし、では話を始めよう」


近くの待合ソファでしっかりと瞼を閉じる成架を寝かせている。

空気はかなりに重い。

ある者はほったらかしにした罪を。

ある者は1人にさせてしまった罪を感じていた。

罪悪感と後悔に塗れた空間に皆が押し潰されそうになっている中、帝聖門の責任者 麻生 久美子 (あそう くみこ)さんは笑顔でとにかく明るくいる。


「結論から言うと、この子はこの島にいる限り安心安全で生きてられるけど、意識は戻らない。逆にこの島にいない限りは不安危険で生きられるけど、何かに呪われたように発狂しかしなくなる。だから、この島にいる限りは安心安全ということさ」


皆は何が安心安全だ?と言わんばかりにふざける麻生さんを怖い目で睨む。それに対抗するように麻生は者新しい机にドンッと手を叩きつける。


「ふふ。これは君たちの失態だよ?私が攻められる要因はない。それで続きだ。この子の意識を戻したいのだろ?じゃあ、やることは一つさ。この子にかけられた呪いを払うのみ。だから、君たちには今日からアナスタシアになってもらう」


「アナスタシア?」


「ああ、アナスタシアさ」


麻生は過去のアナスタシアの写真を見せた。私は過去のアナスタシアとも関係を持っていると自慢しているようだ。

少しの間、写真を見せた麻生は「今日は疲れたろ?この子は私が見張る。だから、寝てこい」と言い、僕たちは各自の部屋に戻り、胸が騒めいていた。


部屋をうろうろと散策していると、部屋の隅に仏壇を見つける。


僕、河頭 翔平 (かとう しょうへい)は成架を救う覚悟を決めるべく仏壇に決意を誓う。


「神様。僕の生命と引き換えでもいい。彼女を…永瀬 成架を救ってくれ」


僕は神など信じないが、このときだけは信じて彼女を、成架を救って欲しいと願った。

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