カナタとの出会い
由里
カナタとの出会い
空白のない世界は息苦しい。過密なスケジュール、効率化、娯楽の多様化。世界の隙間を埋め尽くそうとするそれらに、僕の空白は押しつぶされる。
苦しい。苦しい。苦しい。目に見えない不安に僕はいつも戦っている。
そう、今日だって。
「大丈夫か?」
大学の授業中、胸を抑えて机に突っ伏す僕に、教授は声をかける。
「だ、大丈夫です」
「そうは見えないぞ。保健室、いや、救急車呼ぶか?」
「いえ、ほんとに、もう」
顔をあげると、講義に来た学生たちと目が合う。
皆がこちらを見ていた。訝しげに、不安そうに、退屈そうに。
「あの、すみません」
居た堪れなくなり、僕は机に広げたノートや教科書などそのままに、教室を飛び出した。
教室を出て、すぐにトイレに駆け込む。個室に入り、鍵をかけた。
「どうして、僕は、こんな」
なんでだよ。なんでなんだよ。自分を叱責する。他のみんなと同じように慣れない自分に嫌気がさした。
ストレス、不安、うつ病。そんな目に見えない、自分ではどうしようもできないものに、僕は抵抗するすべを知らない。助けを求めることもできない。
「……誰か、誰か僕を――」
「世界は空白だらけだ」
突然、扉の外から声が聞こえてくる。
「君の世界は小さすぎる。故に、君の世界には空白がないのだ」
「あの、誰――」
「私が君の世界を破壊する」
女性の声。凛として自信に満ちた声音に、僕は思わず鍵を開けた。
それは学校一の変わり者、四島カナタ。
「君はもう、死んでいる」
カナタに指を刺され、僕は死んだ。僕の世界は破壊された。
カナタとの出会い 由里 @yuri-tatara
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