第5話 矢空響太VSオズワルト(途中から三人称)
「———そ、それでは、キョータ・ヤソラ対オズワルト・フォン・レイフィアンスドの模擬戦を始めさせていただきます……っ」
俺が武器を使わないと言ってドン引きしていた女性試験監督が、武舞台に上がった総試験監督であるオズワルトの顔色をうかがいながら宣う。
武舞台の周りには、騒ぎを聞き付けたらしく、受験生や在校生が入り混じった数百人規模の観客がいた。
こんなテンプレのような状況に俺は……。
「———フフッ……フフフフ……」
もう笑みが抑えられていなかった。
ただ、あまりにも自分に良い方向に進み過ぎてて怖くなってくるが……俺には神が味方してくれているので、天罰はくらわないのである。
「…………本当に良いのだな?」
既に黒髪に戻った俺に、苛立ちを必死に隠そうと口元をヒクつかせたオズワルトが尋ねてくる。
正直オズワルトからすれば、俺は非常にウザい受験生だろう。
ただ———俺には知ったこっちゃない。
何でわざわざ嫌いな奴のことまで気にしないといけないのか。
俺は元勇者だが、別に聖人でもなければ御伽噺の正義のヒーローでもなく、ただ目立ってちやほやされたいだけの承認欲求の塊兼自己中男である。
皆んな俺みたいになったら駄目だからね。結構マジで。
「おい、何か言ったらどうだ?」
「や、自分が焦ってるのを隠すのに必死で面白いなって」
「……どうなっても知らんぞ」
「ご勝手にどぞー」
うーん、自分でも引くぐらいに性格悪いな。
でもこうなった時点でどう返しても煽りに受け取られそうなので、どうせなら気持ち良く煽っておくに限る。
「んじゃ始めてください」
「せ、先生……?」
「ああ、始めてくれ」
俺が手首足首をクネクネしながら言えば、何処からともなく取り出した短い杖を構えて戦闘態勢に入るオズワルト。
流石総試験監督になるだけあり、ここに居る誰よりも強そう。
何て俺が小さく笑みを溢していると。
「そ、それでは模擬戦開始———!!」
開始のゴングが鳴った。
「———……あの……キョータという受験生は大丈夫でしょうか……? 確かに魔力は凄まじいですけど、オズワルト先生は評判が悪いにも関わらず未だ残っているだけあって、教師陣の中でも上澄みの実力者ですよ……?」
そう心配そうに宣うのは、開始の合図をした女教師———レシア。
しかし、そんな彼女の隣で目の前で繰り広げられる戦いを眺めていた若げな試験監督の男———の姿をした学園長であるヴィリアボルドは、キラキラと子供のような純粋な瞳を向けながら言った。
「ホッホッホッ、まぁよーく見ておきなさい。世界はお主が想像する何十、何百倍も広いということを、のぅ」
「は、はぁ……」
まだ完全に納得できてなさげなレシアは憮然として様子で武舞台を見る。
「へいへい鬼さんこちらーっ! ほら、早く俺に恥をかかせてくださいよー! あ、でも鬼みたいに顔を赤くしたら駄目だからなー?」
「ぐっ……あまり調子に乗るなよ……!! ———『フレイムランス!!』」
響太の煽りにオズワルトがギリッと唇を噛むと同時に、彼の周りに十を越える魔法陣が現れる。
そこから射出されるのは、紅蓮の炎で創られた槍。
炎の槍は時速数百キロの速度で空を切りながら響太へ飛来し———
「よっ、ほっ、あら……よっと!」
「んなっ!? ば、馬鹿な……!?」
その全てを、響太は完全に見切って最小限の動きで避け……途中で避けるのが面倒になったのか、残りを白銀の魔力を纏った拳で撃ち壊した。
つまり全くの無傷であった。
「あれれ~これが総試験監督の実力ですかぁー? いやまさかそんなことないですよね? だって俺は全然本気じゃないですしー?」
「き、貴様……」
プークスクスー! と口元を押さえて笑う響太の見え見えな煽りにより、プライドを完全に逆撫でされたオズワルトは。
「そ、そこまで言うなら見せてやる……ッ!」
そう言うと共に手を翳すと、先程より大きな魔法陣を展開させ。
「———『ライトニングッ!!』」
「おっ」
パリッ———ビシャァァァン!!
音速など遥かに越えた稲妻が迸り、響太に直撃した後に遅れて雷鳴と轟音が辺りに鳴り響いた。
同時に砂埃が舞い、響太の姿は完全に見えなくなった。
「なっ、そ、それは卑怯では……!? 受験生に中級魔法はやりすぎです!」
「の、ノアたん……!?」
そう声を上げたのは、この学園で唯一会話をした受験生であるエレノアーレ。
先程の魔法を非難するように碧眼の瞳でオズワルトを睨んでおり、他の受験生達も流石にやりすぎだと言わんばかりにオズワルトを見ていた。
だが、オズワルトは呆れた様子でため息を吐いた。
「この結界内では如何なる攻撃を受けようと死にはしない。教師の私が受験生を殺すとでも?」
「くッ……で、ですが……」
必死に反論しようとするエレノアーレだったが———その前に声を上げた者がいた。
「———あ、あのぉ……勝手に俺を死人にしないで欲しいんですけども……」
「「「「「「!?」」」」」」
そう、響太である。
結界内に舞っていた砂埃もいつの間にか収まり、クレーターの真ん中で1人半透明の結界を張ったまま気まずそうにポリポリ頬をかいていた。
もちろんそんな彼には傷一つどころか服すら汚れていない。
これには誰もが驚愕に目を見開く中、いち早く動きを再開させたオズワルトは。
「な、何故だ……何故効かん!? 『ウィンドスラッシュッッ!!』」
自らの魔法が効いていないことに苛立ちを隠すことなく新たな魔法を発動。
結界内の至る所に魔法陣が現れ、そこから不可視の風の斬撃が放た———。
「なんだこんなもん」
響太はそう吐き捨てると同時に魔法陣を一瞥することなく、全方向から迫る風の斬撃を尽く避けると。
「———もっとちゃんと俺を魅せれる魔法を撃てよ、馬鹿野郎」
「ぐはっ!?」
そんな理不尽な言葉と共にオズワルトに一瞬で肉薄し、頭を叩いたのだった。
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