第4話 フッ、負ける気がしなぁい

 明けましておめでとうございます。

 作家に休みはないんです。

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「———え……?」


 そう言ったのは果たして誰だったか。

 ただ1つ言えるのは、その声が俺の口からではないということ。

 なぜなら……。


 目立つチャンス来ちゃあああああああっ!!

 ここで皆んなをほぼ怪我させずに無力化したら間違いなく目立つ!

 問答無用で目立ちまくって勧誘祭りでしょ!


 承認欲求のバケモノと化した俺には困惑など一切なく、ただこの状況をひたすらに喜んでいるからだ。

 そんな奴が困惑混じりの声を漏らすはずもない。

 

 だが、俺の気持ちをもちろん知らない者達は、


「……流石にそれは……」

「幾ら遅刻したからって……なぁ?」

「え、可哀想過ぎない……?」

「確かに魔力は凄かったけど……」


 流石に酷すぎるのではないか、と言わんばかりに同情的な言葉を俺に向けていた。

 どうやらこの受験生達、根は優しい子達みたいだ。お兄さん泣いちゃいそうだよ。


 何て俺がほろりと涙が落ちそうになっていると。


「静粛に! これは学園長からの指示である! 受験生の諸君は、各々に合う武器を試験監督に貰って結界内に入るように!」


 相変わらず意地悪げな顔をした総試験監督が受験生達を黙らせるように言った。

 流石に学園長の名前を出されれば反抗できる者はおらず、俺に憐憫の目を向けつつ模擬戦用の武器を持って結界に入る。


 結界は簡易的な壇上が退けられて現れた武舞台の周りを囲うように展開されているが、性能的に言えばまぁまぁといった所。

 どうせ目立つならぶっ壊しても良いかもしれない。弁償? そんなの壊される方が悪いよなぁ?


 何てしたり顔でクツクツ笑う俺の横で、エレノアが沈痛の面持ちで小さく呟いた。

 

「……申し訳ありません、キョータ様。わざわざ異国より赴いてくださったというのに……後で、正式に学園には訴えを出しておきます」

「え、いやそんなことしなくても……行っちゃったよ、話聞いてくれないマジか」


 心優しいエレノアは俺の言葉を聞くことなく、険しい表情のまま受験生達の波に飲まれていった。一応やるのね、いやそりゃやらないと落ちるからやるんだろうけど。


「ま、とっとと終わらせて……ちょっとアイツの度肝を抜かせてやるか」


 俺はどんな目に遭わせてやろうかと色々と思案しつつ、結界へと向かう。

 だが、結界に入る直前に試験監督と思われる女性に呼び止められた。


「あ、あの……武器は?」

「あ、大丈夫っす。武器だと手が塞がるじゃないですか、それだとこう言った命奪わない系の試合はやりにくいんで」

「は、はぁ……?」


 おっと、完全に引かれてますね。


 コイツマジか、と言わんばかりにドン引きした様子で見てくる試験監督の目から逃れるように慌てて中に入る。

 中では受験生が全部で40人ほどが待機していた。中々に壮観な光景である。

 皆んな武器を所持しており、対する俺は丸腰……ヤバい、この後のことを考えてたら笑みが漏れそうなんですけど。


 何て、必死に表情を取り繕っていると、総試験監督が結界外から声を張り上げる。


「準備は良いな? キョータ・ヤソラが倒れるまで生き残った者は即刻試験合格だ。それでは———試験開始!!」


 そんな開始直前に受験生達が喉から手が出るほど欲しい景品をぶら下げるものだから、開始の合図と同時———自らの将来のために覚悟を決めたらしい受験生達が一気に飛び掛かってきた。

 その目には既に同情は殆ど残っておらず、自分こそが受かってみせるとのやる気に満ち溢れている。


「「「「はぁぁぁぁああ!!」」」」

「「「『ファイアボール!!』」」」

「「「『ウィンドブレード!!』」」」

「うわっ、気迫すごっ。てかこの年でこのレベルってエグない? 俺で言うまだ魔法の魔の字をやっと理解出来た時期よ? でも何かちょっと調子乗ってた昔の俺を思い出すわぁ」


 確かその後、魔王軍幹部にボッコボコにされて鼻っ柱へし折られたんだよなぁ……。


 視界いっぱいに俺を害さんとする様々な攻撃が映る。

 そんな攻撃の中、俺は過去の、自分ならどんなことでも出来ると信じてやまなかった厨二病時代を思い出して肩を竦めつつ、あの総試験監督の度肝を抜かせる方法を思い付いたので、一気に決めることにした。ほんの少しの謝罪も添えて。

 決して1人1人相手にするのが怠いとかいう理由ではない。ないったらない。




「どう考えても大人げない奴なんだけど……まぁ極力痛くしないから、それで何卒手を打ってくださいな。———【制限解除リリース・リミテーション】」




 刹那———数多の武器の切っ先が僅かに触れた俺の身体から、燦然と輝く白銀の魔力が噴き出す。

 白銀の魔力は俺を侵食し……髪だけでなく、眉毛も、まつ毛も、瞳をも根本から先端に掛けて徐々に真っ白に染め上げると。

 

 ———パァァァァンッッ!!


 まるで風船が割れた音が何十倍にもパワーアップしたかのような破裂音と共に、俺を中心に全てが吹き飛ばされる。

 人も、剣も、槍も、弓矢も何もかもが、まるでトランポリンに直撃したかのように跳ね飛ばされた。

 魔法は籠められた魔力を上回る魔力にあてられ霧散する。

 

 原理は簡単。というか原理とも言えない。

 ただ、俺の身体に閉じ込められていた魔力が一気に膨れ上がっただけなのだから。

 なので、受験生達は多少傷を負ったりはしたものの、殆ど無傷と言ってもいい。

 しかしその魔力は、全く勢いを衰えさせることなく結界に衝突し。


 ———ガシャァァァン!!


 軋む音を上げると共にバラバラに砕け散らせるにまで至った。

 

 後に残るは、唖然とする試験監督達と、何が起こったのか理解出来ていない受験生達……そして辺りを一瞬で支配した静寂だった。


 クククク……フワーッハッハッハッハッ!!

 やべぇえええええもう楽しすぎるって! 

 1回目の時はこんな巫山戯てる時間なんかなかったから知らなかったけど……俺Tueeeeeするの楽しぇええええええ!!

 ラノベ主人公達が俺Tueeeeeやる理由が分かるわぁ……。


 そんなテンションマックスを記録した俺は気分が良いままに、呆気に取られた様子で間抜けな顔を晒す総試験監督に視線を移すと。





「———総試験監督、きっと俺の力が見たかったんでしょう? それとあわよくば恥を……何て思ってたのも分かってますから、自分で俺に恥をかかせてみませんか?」





 清々しいほどのクズい笑みを浮かべた。


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