第3話 フハハハハハ! これだよこれ!

「———アイツ、もしかして遅刻じゃなくて重役出勤とか言うヤツだったのか……!?」

「いやもしかしたら学園長自らスカウトした神童の1人かもしれないぞ! 今年は規格外の神童が何人か入学するらしいからな!」

「あれが神童ってヤツかぁ……まさか一瞬で測定器が大爆発を起こすなんてなぁ……」

「いやそれにしても凄すぎるだろ! 使い捨てでも学園長の魔力にも耐えた高級品だぞ!?」

「弁償はないって言ってたけど、あれ、めちゃくちゃ高いんだったっけ?」

「ああ、目が飛び出るね」


 ふふふふふふ……フハハハハハハ……フワーハッハッハッ! 

 これだよ、これ、俺はずっとこの快感を味わいたかったんだ……ッ!!

 やべぇ超気持ちぇえええええええええ!!


 俺が測定器を壊したことで、一時試験が中断となっている今、俺は周りの純粋な称賛や感嘆を盗み聞きして、ニタニタと気持ちの悪い笑みを浮かべていた。

 だが、それもしょうがないことだ。


 だって1回目の時は、ただの戦いも知らない中坊が10年掛けて世界救ったのに、誰からの称賛も感謝もなかったのである。

 あまりにも俺が可哀想。よく闇堕ちして世界滅ぼさなかったよな、俺。

 まぁ自業自得な部分があったと自分で分かっていたから、逆恨みもしなかったんだろうけど。


 だから、別にここで目立って賞賛されて鼻高々になるくらい許されるはずだ。

 絶対神が許してくれるに決まってる。


 何て口元を手で隠してもなお隠しきれない笑みを顔に貼り付けていると。


「……あの、少しお時間よろしいでしょうか?」


 少し聞いたことのある声が耳朶を揺らす。

 誰だろ? と顔を上げれば……ついさっき俺にやり方や注意点を教えてくれた金髪碧眼の良い子ちゃんだった。


 そう、大爆発の際に隣にいた美少女だ。


「……スッー……さきほどは多大なるご迷惑おかけして本当に申し訳ありませんでした。お怪我は大丈夫でしたでしょうか……?」


 もう顔なんて見れない。

 称賛される快感より、優しくしてくれた人を巻き込んだことへの罪悪感が凄い。

 

 一応咄嗟に周りの人は【結界】のスキルで保護していたので怪我はないと思いたいが……相手は貴族と思われる令嬢。

 本人が良くても親が何か言えば、指名手配まっしぐらで俺はこの国に居られなくなる。


 そんな絶体絶命な状況に固唾を飲んで頭を下げていると。


「あ、いえ、怪我などは一切ありませんので、貴方が頭を下げられなくとも大丈夫ですよ? 私はただ、貴方のお名前をお聞きしたくて……」


 おっと、糾弾じゃなくて勧誘でしたか。

 良くラノベの主人公は、やれ勧誘が面倒だの、やれ興味のない所からの誘いは鬱陶しいなど散々なことを言っているが……俺からすれば、勧誘されると言う事実がまず嬉しい。


 しかも相手は美少女と来た。

 これでテンションが上がらない男子は、もはや男子ではない。


 もちろん男子である俺はテンション爆上がりの中、キリッと表情を引き締めて。


「先程は色々とありがとうございました。俺の名前は矢空響太です。一応家名は矢空の方なのですが……特に家名は覚える必要はございません」


 どうせこの世界に矢空は俺以外居ないし。

 仮にいたら、空中で10回転しながら酒をがぶ飲みしてやるよ。


「キョータ、ですか……。何処か異国の地からやって来られたのですか? あ、答え難いようでしたら無視してもらって構いませんっ!」


 そうワタワタしながら言う美少女が大変可愛いのは言わなくとも分かるだろうが、少々俺には破壊力が高すぎる。

 俺は内心の動揺を悟られない様に注意しつつ肩を竦めた。

 

「いえ、大丈夫ですよ。出身は異国といえば異国ですね……数日前にここに着きました」

「なぜ異国からこの学園に?」


 なぜか、と問われれば、何かしらの学園を出なければ戦闘系の仕事に就けないと知ったからだ。

 何年居るかも分からないから保険は掛けとかないといけない。

 その過程で1番有名だったこの学園を選んだに過ぎないわけで。


「まぁ、ここは有名ですからね。この国に来たならこの学園を受ける以外の選択肢はないですよ」

「そう、ですか……」


 どうやら彼女の求める回答を出せなかったらしく、少し眉尻を下げていたが、何かを思い出したかの様に口を開く。


「あ、申し遅れました。私はエレノアーレと申します、気軽にエレノアと呼んでくださいね?」

「まだ受かってすらいないんですが……」

「大丈夫ですよ。貴方も私も、きっと受かってますから」


 そう言って可憐な笑みを浮かべる美少女、エレノアに馬鹿みたいな顔で見惚れていると。

 


「受験生の諸君、待たせてしまい申し訳ない。これより試験内容を———魔法実技から模擬戦に変更する」



 総試験監督の言葉に受験生達が騒めく中、総試験監督が何故か俺に意味深な視線を送ってきたかと思えば。





「———受験生諸君には、同じ受験生であるキョータ・ヤソラと戦ってもらう」





 おい神……良い仕事するじゃないか。


 そんな、俺からすれば棚からぼたもちとしか言えない最高の提案をしてきたのだった。


—————————————————————————————

 ☆とフォローお願いします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る