第10話 まさか樹が?

 瀬尾くんの声が大きくなって、確認してくる意味が分からないまま、小さく首を縦に動かして無言で肯定する。


 だけど、内心では『何で瀬尾くんは、こんなに驚いてるんだろう?』って思いながら、少し興味が惹かれて続きを促すような私の反応だったと思う。


「えーっと……確認だけど、あいつが自分から?」


 何? そんなに驚くところ? だって、須川くんで運動神経いいじゃん。

 スポーツ得意だったはず。


『早く話の先を』と言いたいけど、我慢して無言で頷く。


「マジかぁ……意外だなぁ……」


 自分の髪の毛をクシャっと手で掻きながら、何か考え込むような瀬尾くんに、私はいい加減、焦れてしまって


「だから!さっきから一体、何なの!」


 声を荒げてしまう。


 そんな私の顔を、背の高い瀬尾くんは困り顔で見降ろすように見つめてくる。


「んー、内緒にしておいてくれる?」


 あの空気を読まなさそうで、何かとストレートに言ってくる瀬尾くんが、こんなに煮え切らないくらいになるまで、須川くんに何かがあるの?

 そう思うと、返事は決まっている。


「うん、言わないよ」


 いつしか廊下から階段まで歩き、静かな階段に私の声が響く。


 ふぅっ……と、小さく息を吐き出してから、瀬尾くんが言葉を続ける。


「……簡単に言うと、樹はバスケを避けてるんだ」


「何で?」


 相槌を打つようにして尋ねる。


「んー……あいつさ、中学ん時は、中2までは全国に名の知れたプレイヤーだったんだよね。もちろんバスケのね」


 須川くんの意外な経歴の持ち主だった事にも驚いたけど、それ以上に過去形を使った事が気になって、目で相槌を打って続きを即す。


「で、まぁ……ケガして選手生命を絶たれて、グレて……」


 そこまで言われれば、何となく見当はつくし話も終わりだと思ったけど、瀬尾くんの話は続いて、耳を傾ける。


「でも、あんな無愛想になったのは、リハビリして無理をしなければ何とかなるって所まで回復はしたんだよ。で、『先生、バスケがしたいです』って、言ったんだけど、即答で『ダメ』って言われて……まぁ、復帰させてくれなくてさ?」


 そこまで一気に言われるけど、私の頭の中では、小さい頃に観たバスケのアニメのワンシーンが浮かんでいた。


「…………。」


 そのアニメは一旦、復帰してまたケガが再発してからだったと記憶しているけど。

 どこまで話を盛っているんだろう?


 でも、バスケ部の監督に『ダメ』って言われたら、更にグレて、拗らせて、今の須川くんになった理由は、なんとなく分かった気がした。

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