第7話 奴の名は。
隣の席の須川くんの頭を、丸めた教科書でポカポカ叩きながら、私の方を見て
「こいつが、何か言ったとか?」
私が何か言おうとした時だった。
「ハルっ!うるさい。何も言って無いし、何もしてない」
手で教科書を掴もうと動かしながら、ぶっきらぼうに言ってくる須川くんに『何かしたでしょ?』とばかりに視線を向けて、眉を少し釣り上げる。
球技大会のメンバーに選んでおいて、シレっと何もしてないとか、どの口が言ってるんだか……。
「ほらほら!樹に、何かされたって目で見られてるぞー。」
楽しそうに意地悪そうな笑顔を浮かべながら、『ハル』と呼ばれた男子が言葉を紡いで、私の顔を見ては、言葉を続けてくる。
「あー、勿体ない。勿体ないって。せっかく可愛い顔しているのに、そんなに眉間に皺を寄せたら、台無しじゃん」
悪気は無いのは分かってるけど、無愛想にしてしても、こう言われてしうまうんだと思うと、少し悲しくなる。
眉間に皺を寄せたまま、顔を『ハル』くんに向け、『放っておいてくれない?』とアピール。
「オレが代わりに成敗してやるから」
私のアピールを華麗にスルーするようにそう言って、須川くんの頭を丸めた教科書でポカポカ叩く頻度も多くなる。
響く音も大きくなっているから、さっきより強い力で叩いているんだろうなって思う。
当然だけど、教室の入り口から視線は私、須川くん、ハルと呼ばれている男子に注がれている。
早くこの場から離れて、静かな場所に移動したいって思う。
ムクリと上態を起こした須川くんが、不機嫌そうな顔をして、両手で教科書を奪うように動かし、ハルくんの顔を見上げ
「悪いな。こいつ瀬尾春斗って言うんだけど、悪い奴じゃないから」
向けられている顔の方向とは違って、どうやら私に謝ってくれたらしい。
そして、名前まで教えてくれたけど、それって『仲良くしてね』って事?
須川樹の考えている事は、よく分からない。
もっとも、私の考えている事も分からないだろうけど。
ふんっと息を吐き出すと、教科書を無造作に須川くんの机の上に置いて
「紹介どうもありがとう。とか言わせたい気?……樹、お前も愛想よくしろよなぁー。二人揃って不景気な顔してさー」
『二人揃って』の言葉に、そう言えば……須川くんも無愛想系だなぁと思わず納得してしまう。
しっしと犬でも追い払うような仕草を手でしながら
「うるせーよ。用事が終わったんだったら、早く自分の教室に戻れよ」
いつもの面倒くさそうな口調で言い返す、須川くん。
何だか、この二人が友達って云うのが分かる気がした。
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