第3話 スマホの中にて

 家に着くと即行で自分の部屋に向かった。今はスマホのtwinが気掛かりで母さんに会って停学処分になったなんて言う余裕なんてなかった。それにもう精神的に親離れしても可笑しくないから無言帰宅が癖になっていた、母さんには悪いけど。


 手提げ鞄と一緒に自部屋に入るとそのままベッドへ。全身の力を抜きベッドへ縦に倒れ込むとうつ伏せのまま時が止まれば良いと感じた。だけど改めてtwinを思い返し天寺先輩のことで頭が一杯になった。


 俺の上にある枕の横に手提げ鞄を置き手探りでスマホを取り出すと顔を埋めるのをやめ両肘を支えに顔を浮かせマナーモードをオフにした。これでいつ着信が来ても音の鳴る状態になった。


 とにかく気掛かりが尾を引きとりtwinをオンにし中を確認しようとした。もしかしたらと思ったがtwinに更新はなかった。仕方がないと思い着替えを済ませようとベッドの上で胡坐あぐらを掻こうとした。


 そのときだった。急に着信音が鳴り俺はうつ伏せのまま衝動に駆られ勢いのままtwinを確認した。その音の主が天寺先輩だと確信したときにはなぜか安堵していた。どうやらtwinから察するにもうすぐ自宅に着くそうだ。


 この感じからして天寺先輩は俺に心配かけまいとわざわざ通告してくれたのか。なんて優しい人なんだ。好感触になるとこんなにも嬉しいもんなんだな。覚えておこう。


 なんだかtwinに集中すると他に気が回らない。それだけならいいけど着替えようとしたことすら忘れていた。恋した訳じゃないが盲目とはこんな感じなのか。違うな。これは夢中になったと言う奴か。


 どちらにせよ今の俺は幸せ者だ。人との繋がりがこんなにも心を弾ませるなんて思わなかった。今の俺なら雲の上に乗って旅に立つくらいの気持ちになる。むしろそのまま天寺先輩と――。


 って返信しないといけない。既読が付いているからスルーはいけない。と言うか俺の方が時間があるのだから返信しないとな。


 ここはなんて返せばいいんだ。やはりシンプルに俺は先に家に着きましたがいいのか。それだけだと味気ない。ここは今は自分の部屋にいますも付け加えておこう、その方が既読以上の進展になりそうだから。けっしてやましい気持ちはない。それにいきなり会うなんてならないだろうし俺に余裕がなくてどうするんだ。


 うん。返信内容はこれで良し。天寺先輩はまだ帰路の途中だし返信は後回しになるだろうから俺は先に着替えておくか。やはり学生服のままだと居心地いごこちが悪い。だからここは――。


 スマホを持ったまま起き上がりつつ胡坐を掻いた。こうしてベッドの上に座りながらtwinのやり取りをする。なんて居心地がいい気持ちになるんだ。学生服なんて忘れてしまいそうだ。


 そうこうしている内にtwinの着信音が鳴った。まさかと思いつつスマホを見ると天寺先輩からの返信だった。そこに書かれていた言葉に俺は驚いた。なんと天寺先輩は街の案内役をする為に次のスケジュールを考えてくれていた。


 書かれていた内容に対し俺はすぐに返信した方が良いと思いここは大真面目になった。これはデートではないしただの道案内レベルと思わないといけない。下心なしの大真面目なんて生まれて初めてだ。ってそもそも下心すらも思ったことがない。


 えーと返信内容は、次に会う日ですか。金曜日はどうですか。もし良ければ街案内してくださいにした。どうして金曜日かと言えば土曜は天寺先輩に用事があるかも知れないし日曜は疲れを取ってほしいと思ったからだ。ほんの気休めかも知れないが気付かないよりはマシだろう。


 そう思い込んで返信したが少し長文すぎたか。後悔しても仕方がない。ここは様子を見よう。ここで嘆くなんて真摯でもなんでもない。俺に出来ることは大真面目に天寺先輩を助けることだけだ、あくまでもその恩返しに街案内してくれるという筋書きなのだから。


 空に付き添う雲のようにのんびりするのも悪くない。杞憂に終わることだってあるだろうしなによりも天寺先輩を信じよう。だからスマホを肌身離さず持ち続け生活しよう。だけど今は自分の部屋にいるからスマホはベッドの上に置いて着替えるか。


 律義にするのも悪くない。でもそれだけだと手堅すぎると思うしなによりも相手を束縛したくない。たとえ俺の我がままだとしてもその気持ちに嘘はない。そう思い俺はベッドの端まで移動し立ち上がった。


 それでも万が一のことを考え急いで着替えを済ませたい。もし今すぐに返信がくるのなら躊躇ためらうことなくスマホのtwinを確認する。なんだかんだ念の為に振り返りベッドの上にあるスマホを取り上げスリープモードを解除した。


 すると着信音が鳴り俺はすぐさまにtwinを確認した。そこに書かれていた内容はなんでも俺と金曜日は必ず会うスケジュールに調整すると言う内容だった。と言うことは必然的に俺も合わせないといけないと気合いが入り真顔になった。


 それから俺と天寺先輩はtwinをなんだかんだ着替えを忘れるほどにしやり取りが終わったときには夕飯の時間になっていた。これから始まる出会いに俺は心を躍らせながら着替えを終え一階に向かった。

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三面美人すぎて天寺先輩は青春ライフが送れない 結城辰也 @kumagorou1gou

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