第2話 放課後の門で

 今になって思うのはどうして俺まで停学処分されなきゃいけないのか。しかも転校初日以降に。


 確かに勢いのままだったのは俺も一緒だけどあの風紀委員長もかなり無茶なことを言っていたと断言出来る。


 それにしてももう夕暮れか。早く帰らないと夜になる。幸いなことに俺の家は徒歩で帰れるくらいでそんなに遠くはない。とは言え遅くなると親が心配するからさっさと家に帰ろう。


 放課後の門を通り過ぎると急に声を掛けられた。どこかで聞いたことのある声だ。このときに初めて放課後の門で天寺先輩が待っていたと再認識した。あのときの声は天寺先輩だったのか。


 天寺先輩は俺の元に駆け寄ると立ち止まりなにか神妙そうな面立ちで話し掛けてきた。


「飯塚君、ごめんなさい、私が不甲斐ないばかりに」


「天寺先輩は悪くないですよ。周りの悪ふざけには困ったもんですね」


「私のコンプレックスなんだ、三面美人は」


 誰だって持ってるもんなんだな。悔しがるくらいに伝わってくる、三面美人への憎しみが。


「どんなに贅沢な悩みだって言われたとしても俺は一人の人間として見てますよ、天寺先輩のこと」


「私だって人なんだ。贅沢な悩みなんて知る由もないくらいに困ることだってある」


 嫉妬が勝てば言い争いになるか、決して天寺先輩が悪い訳じゃないのに。世の中は残酷なほどにいびつなんだな。


「これからどうしますか、俺はあっちが帰り道ですけど」


 目線だけで帰る方角を示しそれとなく伝えた。悪いけど俺にも都合がある。どうしてもと言うのなら歩きながらの方が助かる。


「それは良かった、奇遇にも帰る方角は一緒で。どう? ここは同行してくれたら嬉しいんだけど」


 今の天寺先輩は心配だしまだ聴き足りないこともある。幸いにも不都合な要素はない。ここはお言葉に甘えて一緒に帰るか。


「是非!」


 俺の返事を聴いて安堵したのか天寺先輩の力が全身から抜けていくのがわかった。心なしか俺も余裕を持つことが出来た。お互いに干渉し合うなら相性は合いそうだな。


「それじゃ行こうか、飯塚君」


「はい! 天寺先輩! ゆっくりでいいんで帰りましょう!」


 余計な一言を最後に言ったかも知れないと軽く張り詰めた。でもそれも杞憂に終わったようで天寺先輩は微笑みながら先導し歩き始めた。


 歩幅とリズムはちょうどいい感じでこれなら喋りながら帰れそうだった。この感じからして天寺先輩の家も近いのかも知れない。


 こうして横並びになって気付くのはもう初対面って感じがしないってことだ。とは言え失礼や無礼がないようにしないといけないとやや警戒していた。


「優しくされると恩返ししたくなる。……そうだ。私とtwin交換しない? なんか停学処分の罪滅ぼしになればいいけど」


「罪滅ぼしだなんて! あれは俺の自業自得ですから! それにまだ受理されるとも限りませんよね?」


「ううん。七峰ななみね一葉かずはは本気でするから気を付けて。ってこれはもう失言か」


 そんなに怖いのか、風紀委員長って。ちなみに初めて知ったな。七峰一葉って言うのか。覚えておこう。


「停学処分中なんだし定期的に会おうよ、その方が私も気が軽くなるし。ね?」


 ね? って言われると断り辛い。確かにここは推しはかる場面かも知れないな。下手して気が重くなられても困るのは俺だし仕方ないか。


「俺はこの街にきて日が浅いです! だから案内とか頼めますかね?」


「有難う、これから私が責任をもって案内するから。任しといて。ところでスマホは?」


「は、はい! ここにあります!」


 さすがに歩きながらだと危ない。ここは先に止まろう。さらに通行の邪魔にならないように縦に並ぼう、左側の歩道にいるとは言え追い越されることもあるだろうし。


「うん。これで連絡はいつでも取れるね。時間があれば確認の方もよろしくね」


 天寺先輩から警戒心がなくなっていくのがわかる。でも油断は出来ない、そもそも俺は天寺先輩をまともにしなければ登校出来ない訳だから。それは天寺先輩も一緒だからなんとかして登校するようにしないとな。


「とにかく今日はごめんね、風紀委員長に狙われる事態を引き起こして」


「何度でも言いますよ! 天寺先輩は悪くないって!」


「うん。有難う。……助けてくれたことは後で絶対に返すから。後でtwin見といてね。それじゃバイバイ、飯塚君」


「はい! 天寺先輩!」


 天寺先輩の用が済んだようだ。そんなに時間は取られなかったな。見送る気持ちでいたらどんどん遠ざかっていく。あんなに近くにいたことが信じられなくなる。でもこれで天寺先輩が少しでも元気になってくれたらいいんだ。


 あの瞬間から初対面とは思えないほどに繋がった。この縁は大切に守り抜かないといけないと密かに使命感に燃えていた。だって俺と天寺先輩は同じ運命を辿らなければいけないのだから。

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