海面の日、水面の月
@D-S-L
ボウ
某県
そのあまりの
その「住民」の風体がこれまた宜しくない。
私のように見るからに
暗い夜に倒壊三歩手前のようなうら寂れた廊下でそういった面々に不意に出会えば、私でさえ我を失い理性を飛ばして取り乱す事請け合いであり、連中を日頃見慣れていない来訪者が狂乱するのも無理からぬ話である。
ともあれ
そういった観点に立てばその建物は及第点、否、
もっと
いやそれは優秀な我が遺伝子を人類の手から奪わぬ為に必要とされる措置であり言うなれば使命であるとも言えるのだが、賢人の常として私は謙虚で自らの至らぬを承知しているので「飽く迄も私個人の欲求不満の為である」と便宜上述べておこうと思う。
それでは
勉学に打ち込み史上稀に見る大発見を目指す?
企業や資本家と繋がり成功者への階段を着実に上っておく?
どちらも誤答と言わざるを得ない。
そんな明後日を遠く仰ぎ見ている間に、足下にある「学生身分」という資本はじわじわと、けれど一刻一刻確実に損耗していっている。
我々がすべきことは、兎にも角にも宴だ。
宴席で女性陣と御一緒させて頂く事である。
宵の暗さと酔いの酩酊で細部が誤魔化せる内に、弁舌巧みに相手をその気にさせ、翌朝正気に戻った後も、「まあ折角だから」となし崩す流れを設計する。
世の男子学生の中で共有されている性的自己実現のロードマップは、
私はそれを実行するべく、学内での友との語らいの中で目に付いた空席に自らを捩じ込み、己が唯一持てる財産であり武器である舌先を思い残す事なく振るおうと、若気の至りと言うか酒の勢いと言うか、場につく一同の前で大演説をぶち上げた。
「諸君!この店の名を覚えているだろうか!そう、“マンボウ”である!諸君らはマンボウと呼ばれるフグ目をご存知だろうか!?学名モーラ・モーラ!ウオノタユウ、マンザイラク等の別名を持ち、動物界最弱の名を
彼は自ら跳躍した後に海面に叩きつけられて命を落とし、日向ぼっこをすれば太陽光線で命を落とし、魚を呑み込めば骨を喉に詰まらせて命を落とし、仲間が狩られればショックで命を落とす!何とも弱々しく情けなく、その生存に3億もの産卵数が必要なほどだと言われている!
だが彼らマンボウにも、我々人間が学ぶべき所がある!そのしぶとさ、
我々もまたそうあるべきである!完全主義に取り
このような事を盛大に
その日はどうやって我が愛しの
翌朝ノックの音に起こされ、玄関を開けてみれば、そこに居たのは例の筋肉漁師であった。彼は「余ったから」などと供述しながら、透明なビニール袋に入ったグネグネとよく分からない何かを押し付け、鼻歌混じりに出かけてしまった。
これは一体何なのか?
海産物なら食せるものであり、であるならばエンゲル係数が地を這う私としては見逃すわけにはいかないのだが、如何せん調理法も、それ以前に調理の可否や必要性も判然としない。
その得体の知れない物体を覗きながら、ほとほと処置に困り果てていた時、またも扉が叩かれた。さっきより柔らかめな音がした事から、これは着ぐるみ女史の手によるものであると推量出来る。
私は台所の上に適当にそれをほっぽり出して、今度は何用かと再度戸を開けた。
最初に思った事は、「棒が浮いている」、だった。
いやいやそんな筈はないと、よくよく見てみれば、それは扁平であるが故に、前から見ても棒に見えただけで、角度を付ければ簡単にその正体が判別出来るものであり、それは私の目からマンボウに見えた。
即ち、「浮遊する棒」という不可解な物質が、「浮遊するマンボウ」というより不可思議な物品に変わったわけであり、混迷は悪化の一途を辿っていると言えた。
「訴えます」
そのみょうちきりんな生き物は声を、言葉にも聞こえる鳴き声を発することによって、そのみょうちきりんさに磨きを掛けてきた。
そう、今喋ったのは私ではない。
マンボウである。
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