第6話 「白い地獄」



氷の洞窟の最深部。

私の意識は、まだかろうじて残っていた。


体は完全に凍りついている。

血管の中を、白い結晶が走り回る。


「素敵な標本になるわ」


エルメスの白いドレスを纏った明美が、満足げに微笑む。

その背後には、無数の白い死体たちが控えている。


洞窟の天井から、新鮮な血が滴り落ちる。

上の階で捕まった犠牲者たちの血だ。

それが床に落ちる前に凍り、真っ白な氷柱となる。


「この山全体が、私の体なの」

明美の声が反響する。

「数十年かけて、少しずつ浸食してきた」


彼女の体が、突然、巨大な白い肉塊となって膨張する。

その表面には、これまでの全ての犠牲者の顔が浮かび上がっては消えていく。


「もうすぐ完成」


地響きが始まった。

山全体が揺れている。


氷の壁が砕け、その中から無数の白い死体が現れる。

全て明美の顔を持ち、全てが牙を剥いている。


「この山の全ての雪を、私の体にするの」


吹雪が、洞窟の中にまで吹き込んでくる。

しかし、それは普通の雪ではない。

全て小さな歯を持った、生きた雪。


明美の笑い声が、雪崩のように轟く。


私の意識が、白い闇の中に溶けていく。


(続く)

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