第2話 「白い牙」



山荘の廊下を、私は必死で走っていた。

足跡が白い絨毯に赤く染みていく。明美の変貌した姿に腕を掴まれた傷からの血だ。


「どこにいるの?」


明美の声が、雪を震わせるように響く。彼女は今やバレンシアガの白いドレスの下から、雪のような白い肉を零しながら、廊下を歩いてくる。


その足跡に、先ほどの実業家が溶け込んでいた。

彼の顔が、床の雪面に浮かんでは消える。


窓の外では吹雪が一層激しさを増していた。

そして、その白い闇の中に、人影が見えた。


無数の人影。

全て白い肉で作られた人型。

その表面には犠牲者たちの顔が浮かび上がり、苦悶の表情を浮かべている。


「見つけたわ」


振り向くと、天井から明美の顔が突き出ていた。

白い肉の奔流が、天井を這うように伸びてきている。


「この山は、私のもの」

明美の口が、顎まで裂けて開く。

中からは、真っ白な牙が生えていた。


「全てを白く染め上げるの」


彼女の体が、雪崩のように崩れ落ちてくる。

その中から、無数の顔を持つ白い触手が伸びてきた。


逃げ場はない。

窓の外も、廊下も、全て白い肉で埋め尽くされていく。


「美しい赤を見せて」


明美の牙が、私の肉に食い込む。

痛みと共に、体が白く変色していく。


雪の中に、新たな顔が加わろうとしていた。


(続く)

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