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「でも残念ながら、私の仮説には大きな穴がある。キミの正体じゃない。キミが御旅屋の人工生命だとするならば、生み出した目的は何なのか、だ。キミの危機が私を呼んだ以上、この疑問の答えは私が出現した理由──この土地が私を出現させた理由にもなるわけだけど」
ネモジンは座ったまま手を後ろに置き、腕を支えにして、体をだらけさせた。
「うん、さっぱり分からない。この世界の工業は魔性を駆逐できる。少なくともその点において反曲点の出る幕はない。本来、竜を自力で殺せる都市でファンタジーは存続できないし、その必要もない。修理の言ったとおり、ここに私たちがクリアするべき条件はないんだ。でも魔性は現れる。だから反曲点が留まって溜まる。でも何のために? 異常だよ。溜める理由も、召喚し続ける意味もない」
「大曲──竜というのは、それほど強いのですか」
「戦ったら私が勝つ。でも問題は、私が戦うまでもなく、この世界は竜に対処できることの方だ。ここには私が、反曲点がいる意味がない」
「意味がない、必要性がないというのは、ゴールのようにも聞こえます。命にも世界にも危険はなく、ただ暇を潰すだけという状況は、移動の終着点なのでは?」
寿太郎はやはり何気なく言った。誰の注意を引こうともしない相槌のような口調。風に消えるその言葉をネモジンは睨み付けた。
「やだ。面白くない」
「そう言われる気はしました」
「生意気。キミは何度も死にかけて態度が大きくなった」
ネモジンは顔を向けないまま言い、寿太郎はぐっと喉を鳴らして唾を呑んだ。
「──すみません。それに大切なことを忘れていました。助けていただき、ありがとうございます」
「いいよ。それより私は、キミがどうしたいのか、今どういう欲求が残っているのかに興味があるかな。どのくらい自由が利くかは不明だけど、当面のところキミは不死身で、果たすべき役割は他人に仕組まれた物でしかなかった。はい、ここで深呼吸して考えてみよう。吐いて、吸って。どうしたい?」
寿太郎は言われるまま大きく呼吸した。するまでもない、と考える気分もあった。
「僕はあなたにお礼がしたいです。するべきことだ、正しいことだとも思います。僕はあなたの力になりたい。他に優先することなんてない。あなたがこの世界からの移動を望むのなら、その手助けをさせてください」
「真逆だね。キミの作者は反曲点を飼い殺しにしているのに」
ネモジンは水平線を見つめ、目を切って仰け反り、砂に頭を付け、仰向けで逆さまに背後の来た道を眺めた。
「ああ、そうか。キミの存在を説明する道筋には、もう一つ、逆の可能性があるな」
だらしなく寝そべるネモジンと向き合うべきか、その姿態を直視しないべきか、寿太郎は目を泳がせながら会話を続けた。
「それは?」
「竜、曲り、魔性。キミの素材は確かにこの土地だろうけど、生み出したのは曲りの側かも知れない。つまり、キミを使って私を呼び出したのも、曲りの方だという仮説。だとすれば御旅屋がキミを消しきれず、ただ海のそばに飛ばしたことも、私が魔性と戦ったところでクリアにならないことも筋が通る。私が突破するべき目標は、曲りにとっての敵──魔性を生んでは殺すこの土地の仕組みだから」
ネモジンは空を見て頷いた。上体を起こす。
「よし、そういうことにしよう。竜の侵攻を助けてみよう。あの衛星兵器も破壊しなきゃだけど、とりあえず城の囮から殺す。今から私は人類の敵だ」
「分かりました。手伝います。僕が滅多に死なないのなら、この体は使い道があるはずです。僕はもう助けられるだけは嫌だ」
寿太郎は先に立ち上がった。意思と離れて揺れる体は裸足を踏みしめて抑えた。ネモジンは座ったままその姿を眺めた。
「まあ、そうでもないよ。キミがいなきゃ、私もここにいないんだから」
鈍龍削殺城 mktbn @mktbn
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