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「ら?」
ネモジンは寿太郎に振り向き、すぐ修理に向き直った。
「──いや、うん。伝説や噂として聞くことはあったし、居るんだろうとは思っていたけど、実物と話すのは、初めて」
「俺もだ。ここが初めてだった。下にいる全員もな。通称は反曲点だ。俺や貴様らのような存在は、そう呼ばれている」
「ほら、あるじゃん呼び方」
「伝えるつもりでした。ただタイミングがなくて」
「知ってたの?」
「知識としては」
ネモジンと寿太郎の露骨な耳打ちに修理は構わなかった。
「攻略が望みなら好きにすると良い。これまでもそうしてきたのだろう。塔からの手助けはないが、止めもしない。先に行けば城やら宿やらもある」
「へえ、宿も。なおさら進む気にはなるけど、私の質問にも答えなさい。あなたたちのクリアは、どうなったのかって聞いてるの」
「この世界を突破した反曲点は一人もいない。噂すら聞かない。越を隈無く回った人間も、外に出た人間も、全員ここに戻ってこのザマだ。俺たちは諦めた。この世界で死ぬまで生きるだろう」
修理は無感情に言い切った。無感情だ、悲しみも嘆きも、開き直った気楽さも自嘲もない。当然に存在する選択肢から大差のない一つを取った、という態度だった。
ネモジンは関心から抜けていく熱を感じた。反射的に立ち去ろうとすらしたが、その前に口を突く疑問があった。
「ここを動く気はない、助ける気も邪魔をする気もない。ならどうし
て、私たちをここに上げたの?」
ネモジンがもう一度振り向くと、修理は壁際に移動し、飾り気のない刀を拾い上げていた。
「まあつまり、それが時機ということだな」
階段から響き上がる音があった。間違いなく駆け上がる足音、それも複数。寿太郎が飛ぶように階段を離れ、ネモジンはその体を背中にかばった。必然、部屋の奥に進むことになる。その振る舞いと足音を追って修理は目をぎょろつかせた。
「新しい反曲点が塔に現れた日。それが銃手を争うタイミングだ。誰かが銃を奪えば交代、前任者が守り切れば再任。神秘殺しを保つためのクラシカルな儀礼だよ。もちろん貴様らにも挑戦権がある」
「いらない。勝手に戦えばいい。たった今引き留めないって言ったくせに」
「ここを出た後は止めない。背中を撃つこともしないと約束しよう。だが出られるかどうかは、努力次第になる」
不意に固い音が響いた。空気が重く揺れる。岩と岩がぶつかって互いを割るように。そう認識するネモジンの視界で、スローモーションのように、寿太郎は前のめりに倒れた。
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