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 少年は寿太郎と名乗り、ネモジンも名乗りを返した。寿太郎は妙な名前だと思って飲み込んだ。ネモジンは「私の知っている意味が通じるなら、変だけど景気の良い名前だね」と口にした。

 砂浜を行こうとするネモジンを引き留め、寿太郎は海に背を向けて葦の藪を登った。獣道もない茂みの向こうには明らかに切り開かれた道路があった。

 二車線に十分の幅、未舗装のぬかるみには轍も足跡もない。対岸にはまた葦原。その上の雲の切れ間には丘陵らしい線がある。それは道というより、果てしなく長大な生き物が現れて消えた跡に見えた。

 この土地は海に突き出た半島であり、現在地はその付け根に近い、と寿太郎は言った。


「北東に下った半島の先端に、曲りを抑える城があります」

「いいね。そこを目指そう。どのくらいで着くの? それと結局、今って朝? 昼? 時計とか──は、持ってなさそうだけど」

「昼前だと思います。そう遠くはありませんから、日が落ちる前には着くと思います」

「そっか。まあ、ここの一日が私の感覚と合うとも限らないから、ペースは行きながら考えるしかないね」


 二人が行く道はどこまでも単純だった。

 未舗装のまま平坦に延び、進んでも進んでも分かれ道がなく、誰ともすれ違わない。左右の葦原は背と密度が林のそれに変わり、霧雨の合間に黒い山並み、時には海岸が覗くが、人の進むような脇道は現れない。ただ無人の一本道が、大がかりに切り開かれ延びているだけだ。見え透いた罠がそれでも気付かない獲物を誘導するようだった。

 構成物が自然の草木というだけで、それは過剰に人工的な景色だった。


「変な土地」


 ネモジンは普通に口走った。


「ここは列島国家の一部で、こしと呼ばれる地域です」


 寿太郎は説明で応じた。外部とはフェンスによって隔離され、機械の持ち込みも禁止されている。それらは国家施策であり、曲りの出現をコントロールすることが目的──垂れ流される情報はネモジンの気を引かなかった。


「ふーん、思想も変なんだ。ずっと昔からこうなの?」

「曲りが出るようになったのも、そのために改築されたのも数年前です。それ以前はごく普通に人が暮らす土地でした」

「なるほどね。きな臭い話だ。聞く分には面白いけど」


 現地の社会構造と戦うのは手間が掛かる。陰謀は得意分野ではない、という自認もあった。


「現状の方が気になるかな。お城──防御施設って戦いに備えるものでしょ。それを半島の先っちょに作るのは、その向こうに何かいるってことだよね」

「はい」


 寿太郎は素直に認めた。


「城の先の沖からはもっと強大な曲りが出ます。大曲おおまがりですね。さらに海の向こうには外国に属する大陸があって、そちらでも同じように防衛しているそうです」

「大曲か。それもクリア目標かな」

 ネモジンは向かう先の雨雲を見た。

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