後編:ジャンルが濃過ぎてつらい
俺は悩んだ。
熱でうなされて意識が戻らない妹の枕元で、看病する使用人の邪魔にならないように端っこでじっと座って、おおいに悩んだ。
邪険にされて追い立てられて、自分の部屋に戻っても悩んだ。
記憶が戻る前は兄妹といってもほとんど交流はなかった。貴族んちの家族の絆、薄弱すぎ。
前世でも一人っ子だったから、妹という存在に現実味がない。肉親という実感がない相手に、一目惚れした相手が転生していたら俺は道を踏み外さずにいられるだろうか。
……見た感じ美人なんだよなー、妹。
家柄や血筋の関係で、王太子の婚約者候補なのだという。
禁断+略奪かー。
ジャンルが濃過ぎてつらい。
どのみち妹は来年から学園に通うようになるし、自分も騎士団に入るので一緒にいる時間はほとんどなくなるのだが……。
悩んでいるうちにふと気がついた。あれ?これは"悪役令嬢"系の異世界転生パターンじゃね?
「悪役令嬢って、あれでしょう?姫川亜弓でお蝶夫人な意地悪なイライザっぽい神谷曜子」
「最後ダレ?!」
「私もコミックは友達の家で読ませてもらっただけだけど、あらすじで良ければ話すわよ」
前3つはうちにあったから読んだ。だいたいあっているので、母の昔語りは止めさせて話を進めた。
このままだと妹がヒロインに意地悪をして、王子から断罪されて、余波で公爵家が丸ごとお取り潰しされる危険があると説明すると、両親は深刻な顔になった。
「クーデタ一スタートか。難易度が高いな」
「私、先に
「お前が実家に帰るなら、俺は思い残すことのないように、最後に思う存分ハーレムでも作るが」
止めろ。違う意味で我が家がピンチになる。
とにかく妹の取り扱いと、王家との婚約の話は慎重にしようということで合意した。
「なんか最近、まーくんがしっかり話をしてくれるようになって、お母さん嬉しいわ」
「はぁ?」
「前は"あぁ"とか"別に"とか、素っ気ない一言二言しか返さない子だったじゃない」
「んなことねぇよ」
「生まれ変わるって凄いわねぇ」
「うぜぇ」
危機的状況だから運命共同体であるあんたらと情報共有して対策会議をしてるんだろうが!
とは思ったが、ニコニコしている母をへこましてため息をつかせるのも大人げないので、引いてやった。
そして、妹が目を覚ました。
「なんやのん。このはったい粉みたいな白粉。真っ白けになるだけで、粉っぽくてかなわんわ。粉吹き芋ちゃうで。口紅も赤けりゃいいみたいな色しかあらへん。こんなんべったり塗ったら、金魚咥えたみたいになるやんか。服かて、ろくなもんないのんはどういうこっちゃの?この別珍とか猫の死んだのみたいやんなぁ。公爵家の娘相手で、こんなしみったれたもんしかないんか?どやの?もっと、タカラヅカみたいに、華やか〜で、綺麗〜で、可愛く〜て、オッシャレ〜なもん持ってきてんか」
妹の中身は、うちのおばあちゃんだった。
「ダメだ。王子の婚約者には無理だ」
「将来的には王妃にならないといけないんでしょう?絶対に阻止しましょう」
「公爵家の領地にいい保養地がある。そこに洒落た館を用意して悠々自適に暮らして頂こう」
家族会議で満場一致で処遇が決まった。
「若いってええねぇ。何でもできる気がするわ」
「政治とか政略結婚とか、煩わしいことはなーんにも考えずに、第二の人生をバカンス気分で楽しんでください」
「ホンマにね。子育て終わって一息ついて暇になったら身体が言う事きかん歳だなんてつまらんもんね。年金も貯金も足りるかどうか不安しかない世の中やったし。それ思たら、アンタ。こんなわっかいべっぴんさんに生まれ変わって、しかも公爵様のご令嬢やて。神様もきばったご褒美くれはったもんやなぁ。そら私は日頃から行い良かったし、運はええ方やったから、神様には愛されてるやろな〜とは思てたけどな」
「良かったな。ばあちゃん」
「あ、まーくん。その"ばあちゃん"言うの止めてんか。アンタのが年上やねんから」
「……はい」
こうして、
俺は騎士団に入団し、学園に通う王子の護衛役になった。
そこで出会ったヒロインっぽい女子学生が、実はヒッチハイカーのあの娘で、悪役令嬢がいないので王子ルートが盛り上がらず、紆余曲折の末、俺の婚約者になったりするのだが……家族会議で承認された婚約だから問題はないのだ。
悪役令嬢対策は家族会議で 雲丹屋 @Uniyauriya
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