聖夜の功罪

ぼっちマック競技勢

サンタはいるの?

「ねぇお母さん。サンタはいるの?周りの子はみんないないって言ってるよ。プレゼントを置いていくのはお母さんとお父さんだって」


「そんなわけないわ。サンタはいるわよ」


「それ、絶対?」

「絶対よ」


 ▲

 幼稚園に行くため、朝準備をしながら私は母に問いました。そして母はいつもおんなじことを言います。だから私はそれを正しいと信じます。真実だと信じます。


 私は幼稚園に行き、サンタはいると言いました。親しい友人にも、幼稚園の教員にも。見境なくサンタはいると言います。

 教員はそれを温かく見守り、純粋無垢な子だな、と思っていました。それしか考えていませんでした。


 しかし彼は友人にこう言われます。


「サンタなんていないよ。カイくん。プレゼントはね、お母さんとお父さんが夜中に置いていくんだよ。僕物知りなんだ!」


「違うよ。タケルくん。お母さんが言ってた。サンタはいるんだよ」


「僕のお兄ちゃんはいないって言ってたもん!カイ君の方があってないもん!」


「ウグッ...僕、あってるもん」


 そういう彼の目は涙ぐんでいました。小さい子にとって、友達から怒鳴られるのは怖かったようです。しかも、その中でも群を抜いて泣き虫だった私は、それだけで泣いてしまいます。

 あわててたくさんの先生が駆け寄ります。


「カイくん。どうしたの。タケルくんもおっきい声を出してはいけません!」


 そうして私は先生に連れられ職員室へ問い避難させられる。タケルくんはこれからお説教タイムだ。そして僕は慰められるタイム。いつものことです。

 ですが今日は少しばかり私に響いたよう。子供と大人、友人と両親。どちらも大切で、だからこそ裏切れません。どっちを信じればいいんでしょう。


 多くの子供はここで友人を信じます。そしてサンタはいない、という定説に沿ってこれからも毎年、クリスマスを過ごすのです。

 商品を購入した際のレシートを家中探し回ったり、大きなおもちゃの入った箱についたバーコードを見て粗探ししたり、いろんなことをするのです。


 だけれど一途なこの子はどうしようもありません。純粋だった時のこの子はどうしようもないのです。


 ▲


 幼稚園の教員は家路につきながら今日会ったことを回想します。タケルくんやカイくんの話を聞いて何が起こったのかは大体把握していました。そして、いつも仲のいい彼らでしたが、今日だけはお昼休みに別々の遊具で遊んでいました。


 明日になったら、また元のように仲良くなるのでしょう。だけれど教員は心のどこかにひっかかるものを感じたのです。


「ねぇママ。ほんとの本当にサンタはいるんだよね」


「えぇそうよ」


 ごく一般の常識に沿って親はこう言います。もう引っ込みがつかなくなってしまったから。だけれどそれは本当に正しいことなのでしょうか。


 もっともっと、教員は考えます。


 元々、聖夜のサンタクロース。その偽りの存在は子供と大人の間で、嘘である、という共通認識が成り立たせていたもの。嘘をついて子供に隠し通している、という体裁を取ってはいるもののその嘘自体が「嘘」なんです。


 子供が気づいていると薄々感じていながらも常識に沿ってそう答えます。そして心の中で「あぁ親子らしい会話。私の子供はなんて可愛いの」と思うのです。


 その後、教員は深く、深く考えながら家に帰ります。彼女は夫と一人の子供を家族に持っています。円満な家庭です。そして今日はクリスマス・イブ。子供から発せられる「あの」質問の出現率が一番高い日です。


 そして案の定、私の娘は帰ってくるなり駆け寄ってきます。そしてこういうのです。


「明日、サンタさんきてくれるかな。サンタさんって本当にいるんだよね!」


 キラキラ輝いた目でこちらを見てきます。

 今までなら何も心が痛まずに、彼女の意見を肯定したでしょう。ですが仲を引き裂かれて、いっときでも傷ついた少年たちの姿を見た後では、とてもではありませんがそれはできませんでした。自分の一言一言が簡単に子供の足を引っ張ってしまうと

 知った後では。


「どうだろうね」


 そんな発言にとどめておきます。絶対来るわよ、とは言いません。逆に絶対来ないわ、とも言いません。有耶無耶にして、曖昧にして。私は卑怯でしょうか。


 常識でも、人は傷つきます。常識だから、人は傷つきます。

 自己満足の嘘のために。世の中の風潮の嘘のために。子供を傷つけたいと願う親はいないでしょう。


 だけれど彼女たちは、彼たちはまだ気づいていません。

 クリスマスの、サンタクロースの功罪について。


 <終>


 まぁそれを乗り越えてこそ、ってところもあるんですけどね...私の昔話です。子供の最初の関門ですよね。

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