第19話 寄り道②

「アンタの顔って相変わらず不機嫌そうよね」

「お前最近俺の顔を罵るの好きだよな」

「悪い? マイブームなのよ」

「そんなマイブームはとっととやめてもらいたいんだが」

「それはできない相談ね」


 登校中、俺と桃花はいつものように会話する。もう桃花と登校するのが当たり前になってしまっている。

 特に嫌ってわけじゃない。


「で、昨日夏宮と相合傘したんだっけ?」


 桃花が突然俺に疑問を投げかけてくる。

 俺は夏宮と相合傘したことを桃花には言ってないんだが……。


「なんでそれを知ってる?」

「……付けてたのよ」

「趣味悪いなお前」

「悪い? アンタが破廉恥なことをしてるのがいけないのよ!」

「破廉恥って……」


 今時使わない言葉を使う桃花に思わず困惑する。

 ……そういえば、なんだか桃花の態度が柔らかくなったのは気のせいだろうか。


 教室。

 夏宮は友達に囲まれている。

 そんな夏宮を見ると一抹の寂しさを覚えるのは気のせいだろうか。


「なーに夏宮に見とれてるのよ!」

「いたっ!」


 突然後ろから桃花に後頭部を叩かれた。

 桃花は俺の目の前まで来て、両手を俺の机に置く。


「夏宮に見とれるのは当たり前だろ」

「どうせ乳しか見てないんでしょ?」

「……乳だけじゃないぞ」

「乳を見てたのは認めるんだ」

「だってあんなに大きいのに見ない方が失礼だろ」

「全くアンタってやつは! スケベにもほどがあるわよ!」

「いてっ!」


 また桃花に頭を叩かれた。

 桃花の体型も悪くはないと思うが、やっぱり夏宮の体型の方が俺は好みだな。

 ……こんなことを言ったら桃花に殺されるから言えないが。


 ――放課後。

 俺と桃花は訳あって駅前のゲーセンに来ている。

 桃花が新作のぬいぐるみが欲しいみたいで、もう何十分もクレーンゲームの筐体の前に立ちふさがっている。


「そんなにお金使ってると、金無くなるぞ」

「うるさいわね! どうしても欲しいのよ!」


 桃花はもうこの筐体に二千円近くも使ってしまっている。

 このままだと桃花の財布がピンチになる。

 ……こうなったら。


「次からは俺が取るよ」

「……はぁ? 何言ってるのよ! これはあたしが取るの!」

「見た感じお前じゃ無理だろ」

「うっさいわね! いちいちイラつかせないでよ!」

「一回でも俺を頼りにしてくれないか?」

「……は、はぁ? バッカじゃないの!? ……まあでも? アンタがやりたいならやってもいいけどぉ!?」


 そういって桃花は俺に交代した。

 俺は自分の財布から二百円を取り出して、桃花が欲しがってたピンクのクマのぬいぐるみを取る。

 ……取れた。あっさり取れた。


「な、何よ!? なんであっさり取れてるのよ!?」

「悪かったな」

「ふ、ふん! ありがとうとでも言っておくわ!」


 そういって桃花はぬいぐるみを抱きかかえて鼻歌を歌ってどっかに行く。

 ……あ、アイツ財布を忘れてる。


「おい! 桃花! 財布忘れてるぞ!」

「……え~?」

「え~じゃない!」


 俺は桃花の財布を届けに行く途中で自分の鞄と財布まで忘れていることに気づいて慌てて戻った。

 桃花は人混みに紛れていたが、ツインテールなのですぐ見つけられた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る