第18話 雨

 今日は曇り空だから傘を持ってきた。

 もうすぐ梅雨入りだからか、いつ雨が降るのか不安になって仕方がなかった。

 いつしか制服は冬服から夏服に変わった。


 ……やっぱり雨が降ってきた。

 昼休みはどうすればいいんだ? 俺は迷いながら自分の席に座っている。


「おい、生ゴミ」

「……おお、桃花か」

「桃花じゃなかったら良かった?」

「いや、そういうわけじゃないが」

「購買部に行くわよ」

「分かった」


 そうして俺たちは購買部に向かい、パンを買って……教室で食べている。


「アンタってさ、いつも腑抜けてるわよね」

「いきなり失礼だな」

「だって……昔のアンタと比べるとどうしても……」

「昔の俺なんてもういないんだ」

「……っ!」


 桃花が苦虫を噛み潰したような顔をしだした。

 桃花は俺が『神童』だったころからの幼馴染だったから、今の俺の現状にガッカリしてたのだろう。

 というか、現在進行形でガッカリしているのだろう。


「何よ、それ……!」

「……言葉通りの意味だぞ」

「あたしは、あたしは……!」


 桃花が泣き始めた。

 そんなに泣くことの程じゃないだろ。俺はそう思った。


「あたしは、昔のアンタが……本当に……!」

「好きだった、とかか?」

「っ!」


 こんなの大方予想できることだが、見事に的中してしまった。

 確かに小学生の頃の俺は完璧な男だった。だから桃花が惚れるのも無理はないのだろう。

 小学生時代は何度も告白されたり、誰かと付き合ったことさえあった。

 でも小学生なので当然童貞は捨ててない。


「アンタは、今のままでいいと思っているの……?」

「ああ」

「……進歩ないわね」

「進歩が無くて結構」


 こんな感じで微妙な空気になって俺たちの昼食タイムは終わった。

 桃花が昔の俺を好きだったのは予想通りだった。


 放課後。

 俺は傘を差して帰ろうとしたら……何者かに制服の袖を掴まれた。

 後ろを見てみると、夏宮だった。


「……どうした、夏宮」

「あの、私……傘を忘れてしまって……」

「職員室から借りればいいだろ」

「もう全部の傘が使われちゃってて……」

「じゃあ友達から借りるとか……」

「あなたの傘じゃなきゃダメなんです!」

「……えっ」


 夏宮からの衝撃的な告白に俺はつい驚いてしまう。

 周りの視線が痛い。……このまま夏宮を傘に入れればいいのだが……それって相合傘ってことになるのでは――!?


「ということで、あなたの傘に私を入れてください!」

「わ、分かったから大声出すな!」

「あ、ありがとうございます」


 そうして俺は黒い傘を差して夏宮と一緒に相合傘をした。


「私、男性と相合傘をするのは初めてです……」

「俺も女と相合傘をするのは初めてだが……」


 夏宮がこんなに近くにいるのに落ち着かない。

 若干いい匂いするし、胸大きいし、髪もサラサラそうで……。


「秋山君は、今ドキドキしてますか?」

「……まぁ、若干な」

「実は私、今日はあえて傘を忘れてきたんですよ」

「……えっ、そうなのか!?」


 俺は驚いて傘を落とそうとするが、持ち直した。


「私、秋山君の事、嫌いじゃないですよ」

「興味が無いのに?」

「最近は興味ありますよ」

「そ、そうなのか……」


 夏宮に興味があるといわれると、胸の奥が温かくなっていく。

 これが冗談じゃなければいいんだが……。


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