第17話 進展

 俺が不登校から脱出して、もう一か月が経とうとしている。

 相変わらず夏宮との進展はあれ以来ないないし、桃花との関係もいつも通りだ。

 そろそろ何か劇的な変化が欲しいと思ってる俺と、このままの日常がいいと思っている俺がいる。


「アンタ、いっつも腑抜けた顔をしてるわね」

「悪かったな。これが俺のデフォルト顔なんでな」

「ひっどいデフォルト顔ね。課金して顔変えたら?」

「お前さりげなく酷いことをいうな」

「そう? これがあたしの通常運転だから」


 こんな会話をしながら、俺たちは教室へと入っていく。


「夏宮さん、付き合ってください!」


 突如四組の教室から男の勇気を振り絞ったであろう大声が聞こえてくる。

 人混みがすごいので大衆を押しのけて、最前列まで来た。

 すると、男が夏宮に左手を差し伸べていて、頭を下げている。

 夏宮の方はというと、口を両手で押さえている。


「……えっと」


 夏宮が困惑した様子で返事を紡いでいく。


「私は、まだ恋愛とする気は無いので……」


 そんな断り方でいいのか?

 俺は不安になるが、男は「分かりました!」と言って教室を出て行った。

 アイツ、他のクラスの奴だったのか。


「ほっ……」


 何故かホッとしてしまった自分がいる。

 夏宮が常識的にあんな男と付き合うなんてありえないだろうに。


 昼休み。


「秋山君、一緒にご飯を食べませんか?」

「えっ?」


 突然夏宮に誘われ、俺は固まってしまった。

 夏宮は後ろに何かを隠しているような感じに見える。


「嫌……ですか?」

「……そ、そんなことはないぞ」

「そうですか。では教室で食べましょう」


 そういって夏宮は俺の前の席の机を俺の机とくっつけて向かい合うような感じになった。

 ……弁当箱が二箱ある。

 一つは赤い包み、もう一つは青い包みに包まれていた。


「青い包みのは、俺の弁当か?」

「はい」


 夏宮がそういうので俺は青い包みの弁当を開いた。

 ……ものすごい男好みのおかずが詰められていた。中身は唐揚げ、卵焼き、ソーセージ、ハンバーグなどだった。

 勿論白米もあった。真ん中に梅がある日の丸弁当だが。

 俺は箸を手に取り、食べる。……うん、美味しい。


「どうでしょうか? 美味しかったでしょうか?」

「ああ。美味しいぞ」


 ……ところで、どういう風の吹き回しで夏宮は俺に弁当を作ってきたんだ?

 それに俺と一緒にご飯を食べることすら初めてなのに。


「なぁ、夏宮」

「はい、なんでしょうか?」

「なんで突然俺とご飯を食べようと思ったんだ? しかも弁当まで作って」

「……あなたをもっと知りたいからです」

「うっ、結構ダイレクトに言うんだな」

「そんなにダイレクトでしたか?」

「まぁ、うん……」


 結局俺の秘密を知りたいから俺に少しでも好かれるようにという打算ありきなんだな。

 なんだかそれを聞いて少しだけガッカリしている俺がいる。

 まあ、夏宮にとって俺なんてモブ同然の存在だから仕方ないのか?


 こうして昼休みが終わった。

 そして放課後。


「馬鹿!!」


 いきなり桃花に怒鳴られたので振り向くと、桃花が俺の後ろに立っていた。


「なんで夏宮とご飯を食べるのよ!! この馬鹿!! ウジ虫!!」

「……それは、誘われたから」

「誘われたらホイホイついていくんだ。アンタって思ったより信念無いのね」

「はいはい、なんとでも言えよ」

「本当にガッカリしたわ」


 こんなやりとりをしながら、俺と桃花は家に帰った。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る