第16話 仲直り

 俺はあれから夏宮に嫌われているのか?

 夏宮と会うと避けられてる気がするし、モーニングコールのメールの文面もいつもより簡素だ。

 こっちからメールしようにも、怖くてなんかできない。

 恥ずかしい奴だよな、俺って。

 今はリビングのソファに寝っ転がってスマホを見ている。


「お兄ちゃん、邪魔だよ~」

「……ん、紅葉か」


 上から紅葉の声が聞こえたので、俺は上半身を起こしてソファに座りなおす。

 紅葉は俺の隣……というよりも少し距離を開けて座っている。


「……どうしたのお兄ちゃん、なんか悩みでもある?」

「……」


 俺は妹に相談するか迷っている。

 だがプライドの問題で相談するのをためらってしまう。

 かといって桃花に相談するとこの前みたいな失言を言われそうだ。

 俺はどうすればいいんだ――!?


「あっそ。悩みなんてないんだ」

「ある」

「……え?」


 つい口に出してしまった。

 こうやってあると口出してしまった以上、話さないと駄目だよな。


「どんな悩み?」

「……クラスメイトに嫌われている感じがするんんだ」

「それはお兄ちゃんの自業自得じゃない? クラスでも壁作ってそうな感じだし」

「違うんだ。そのクラスメイトとデートして、そのデートしたことを桃花に話してしまったんだ」

「もしかしなくても、夏宮さんの事?」

「ああ、そうだ」

「今の話を聞いてる限り、お兄ちゃんが百悪い」

「それは分かってる。問題はどうやったら仲直りできるかだ」

「……思い切って謝ってみれば?」

「……それが出来たらこんなにこじれてない」

「何それ。二人とも意地っ張りだね~」

「意地っ張りで悪かったな。ただどうやって解決すべきか分かったよ」

「ふーん」


 俺はリビングを出て自室に戻った。

 妹に話を聞いてもらったことで、謝って解決するという明確な答えが得られた。

 ベッドの上に寝転がった俺は、早速夏宮に謝罪メールを送る。


『夏宮さんへ。数日前は桃花にデートしたことを言ったことを謝ります』


 十五分ぐらいかけて、やっと書けたので震える手で送信する。

 ……なかなか既読が付かない。


 ――何時間が経っただろうか。

 やっと既読が付いたが、返信は来なかった。

 ……電話が鳴った。相手は夏宮からだったので俺は即座に出た。


『もしもし、夏宮か?』

『……あ、あの』

『俺、桃花にお前とデートしたこと言って……すまない!』


 力いっぱいに俺は謝った。


『……私、あの時は許せませんでした。それは今も変わらないです』

『そ、そうか……』

『でも、私も意地を張ってました。あなたがこうして謝ってくれたので、それでいいです』


 それでいいです、が許しなのか諦観なのかは分からないが、とりあえず張り詰めた糸が切れたかのような錯覚に陥った。


『で、私から質問いいですか?』

『うん』

『あの時、なんであなたは怒ってて、春野さんは泣いてたんですか? あの時聞聞きそびれたので』

『……桃花が俺に対して言ってはいけないことを言ったんだ。そんなんだから中学受験失敗したんだろ、って』

『そう、ですか……。中学受験失敗って何ですか?』

『それは……まだそこまでの仲じゃないから教えられないな』

『デートしておいて、そこまでの仲じゃない……って』

『核心に触れることだからな。もっと仲良くしないと教えられないな』

『むぅぅ……悔しいです』


 こうして俺たちは電話で数十分以上話した。

 悩みが解決したみたいで、とりあえずは一安心した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る