第12話 試し行動

 俺は夏宮を試すために、また不登校になっている。

 夏宮のモーニングメールを無視して、もう一週間近く不登校になっている。

 夏宮は何もしてこない。

 家にも来ない。

 メールだけは相変わらず送ってくるが……つまり家に来るのがめんどくさいということだろうか。


 ――夜。

 インターホンが鳴った。


「宗太郎ー! 夏宮 りんちゃんがアンタに用事があるってー!」


 母さんが俺を大声で呼ぶ。

 俺は階段を急いで駆け降りて、靴を雑に履いて玄関に向かった。


「秋山君、私怒ってるんですからね?」

「……すまない」


 珍しく夏宮が露骨に怒ってる顔をしている。これはこれで可愛い。

 ……って、そんなことを考えてるんじゃない!


「何を首を振ってるんですか?」

「……ああすまん、こっちの話だ。さ、中に入って」

「分かりました」


 俺たちは俺の部屋に行った。

 部屋も片付いてないので、正直言ってかなり心配だったが……。


「秋山君、今から部屋を掃除しますよ」

「……分かった」


 そう言って夏宮は掃除機を母さんから借りて、色々清掃グッズを使って俺の部屋を綺麗にした。

 勿論俺も手伝った。正直言ってかなり疲れた。不登校時代が長くて体力が無いのもダメだったな。


「随分綺麗になりましたね」

「そうだな」


 あんなに汚かった俺の部屋は、モデルルーム並みに綺麗になった。この部屋の床を見たのもかなり久しぶりだ。

 ……でも座る場所が見当たらない。どうすればいいんだろうか。

 あっ! そうか。


「夏宮、お前は俺の学習机の椅子に座ってくれ」

「……いえ、人様の家でそんなことできません。私は立ってるだけでも大丈夫なので……」

「そ、そうか」


 なんだか今の夏宮を怒らせると怖いから、大人しく従おう。

 俺は学習机の椅子に座った。夏宮は私服を着ている。何てかわいいんだ。


「で、なんで私のメールを無視して不登校状態を続けたんですか?」

「……お前を試したかった、とかじゃダメか?」

「なんで私を試したかったんですか?」

「それは……お前の奉仕精神が本物か確かめたくなったから、とか」

「……そうですか。確かに電話で『あなたにそんなに興味ない』的なことを言ってしまいましたからね。不安になるのも分かります」

「お前の偽善とエゴが本物かどうか試したかった……とか?」

「なんでそんな意地悪なこと言うんですか?」

「お前が家に訪問してくれなかったから、かな」

「……あの、一つ気づいたことがあるんですが……」


 夏宮は深刻そうな顔をして咳払いした。


「あなた、私のこと好きですよね?」

「……は?」


 いきなり変なことを言われたので、俺は高めの素っ頓狂な声を上げる。

 夏宮は少しだけ口元を緩めた。


「でも私はあなたの事、LikeでもLoveでもそんなに好きじゃないです」

「……ハッキリいうな」

「勘違いされたくないので」

「……でも俺はお前のことが好きかどうか分からないぞ?」

「じゃあ、今度デートしますか?」

「……は?」


 不敵な笑みで夏宮は変なことを言ったので、俺は思わず目を丸くしてしまった。


「デートしてみたら、私のことが好きなのか分かるんじゃないんですか?」

「……分かった。その提案に乗るよ」

「分かればいいんです」

「なんだ、その言い方は」

「すみません。突然春野さんみたいな言い回しをしてみたくなりまして」

「そうか」

「デートは今週の日曜日にしましょう」

「分かった」


 こうして俺たちはデートの約束を取り付けた。

 これで夏宮の想いも真剣なのが分かったし、デートに行ってから学校に行ってもいいかもしれないな。


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