第9話 通話
『夏宮、今暇か?』
メールを送って十五分、なかなか既読が付かない。
なんだかすげーモヤモヤする。いつから俺は女からの未読スルーでここまで感情を揺さぶられるような女々しい男になっちまったんだ!?
しばらくして……。
『すみません、友人と通話してまして。で、なんですか?』
やっと既読を付けてくれた時の、しかも返信してくれた時のこの喜びよ!
例えるなら主人にやっと餌をもらえた犬の気分だ。……って、俺って犬だったのか?
まあいい、夏宮に返信しよう。
『最近のモヤモヤが酷すぎて不登校になりそうなぐらい落ち込んでるんだ』
『まあ! それは大変ですね。私に相談して気が晴れるならぜひ相談してください』
『俺って夏宮にとってどうでもいい存在なのか?』
『え?』
いきなり何を聞いている俺は。
まずは桃花の件を聞くべきだったろうに! 俺の馬鹿!
『……電話しましょうか』
夏宮からの返信は驚くようなものだった。
電話? 電話番号も知らないのにどうやって? それにメールでいいだろ。
つい思考の濁流がせき止められない。
『なんで?』
『生の音声の方が気持ちをダイレクトに伝えられていいじゃないですか』
『そ、そうだな……』
『私の電話番号は080-3××9-4××2です。なんなら番号登録もしちゃってください』
『分かった。俺の電話番号は080-5××9-3××0だ』
取り敢えず夏宮の電話番号を登録したところで、早速夏宮にかけてみる。
いや、夏宮も俺の電話番号を登録してるだろうから少し待った方がいいか。
俺は一分ぐらい待った後……向こうから電話がかかってきた。
『もしもし、繋がってますか?』
『ああはい、繋がってるぞ』
『こほん。ではあなたのことについてですが……ハッキリ言って、心の奥底ではどうでもいいと思っています。秘密を知ってみたいとは淡く思ってますが』
『うっ、そうか……』
想像以上に気分が悪くなってる自分に驚きだ。
少なくとも前の俺はこんなにナイーブじゃなかった。
夏宮にとって俺は『更生対象』でそれ以上でもそれ以下でもないのは冷静に考えればわかることなのに。
というかこれならメールで伝えてくれた方が良かった。
口頭で直接言われるとダメージ激増だ。
『あっ、ごめんなさい気分の悪いことを話してしまって……。一応言っときますと、あなたのことは嫌いじゃないですよ!』
『あ、ありがとう……』
『それで、他に聞きたいことはありませんか?』
『えっ、あー……』
すぐに話題を切り替えられたのにショックだった。
もうちょっとこの話題で粘ってくれるかと思ったが、向こうからすれば俺の気分がこれ以上沈まないようにという配慮なんだろう。
『桃花の奴、気分が沈んでるんだよ』
『そうですか。どうして気分が沈んでるか、思い当たることはありますか?』
『俺が夏宮とメアドを交換してたのが許せなかったんだと思う』
『なんだ、それなら簡単じゃないですか。春野さんともメアドを交換すればいいんですよ』
『いや、そうなんだが……。なかなか勇気が出なくて……』
『私は春野家の住所は知らないのでそちらには行けませんが……。こういう言葉は秋山君が直接言うべきだと思います』
『だよな。今日俺がアイツに言ってくる!』
『その意気です! あ、私は課題をやるのでそろそろ切りますね』
電話は切られた。
でも、電話するよりかは胸のモヤモヤは消えた。
さて、桃花の家に行くか。
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