第4話 帰り道

 今日はなんだかどっと疲れた。

 久しぶりの登校だから当たり前なのだが。もうしばらくは家に引きこもっていたい気分だ。

 俺は席を立ち上がり、一人で帰ろうとする。


「ちょっと、待ちなさいよ!」

「……は?」


 桃花に呼び止められた。

 彼女は早歩きで俺の隣まで来る。


「一人で帰るとか、それってどうなの?」

「どうなの、って……別に、どうってことないが」

「いやさ、アンタさ……」

「用がないなら俺は一人で帰るぞ」

「ま、待ちなさい!」


 桃花が大声で俺を引き留めて、俺の制服の袖を引っ張る。

 ……こいつは何がしたいんだ。俺はそんな疑問が頭に思い浮かんだ。


「……あ、アンタさ」

「ああ」

「一人で帰るとか、体裁悪いと思わないの!?」

「別に? 俺は一人は気にならない性分でな」

「はぁ? 何言ってんの!? アンタはそう思っても、そう思わない人が居るってことを忘れないでよね!」

「……めんどくさいな。さっさと本題を言えよ」

「……あ、あたしと一緒に帰りなさいよ!」

「……俺みたいな生ゴミと一緒に帰るのか?」

「ち、ちがっ! ほ、本当に生ゴミだなんて思ってないんだから……」

「今、なんて言ったんだ?」

「な、なんでもない!」


 またもや桃花は小さい声で何かを喋る。大事なことは普通の声量で言ってほしいものだが……。


「春野さん、また秋山君をいじめてたんですか?」

「……はっ?」


 夏宮の透き通った美声が、俺たちに浴びせられた。

 夏宮は俺たちの目の前に立っていた。


「な、何よ夏宮……!」

「春野さん、秋山君を攻撃するのはやめてください」

「はぁ? 攻撃ぃ? あたしはただ単に事実を言ってるだけだけどぉ?」

「仮に事実を言ってるなら、もう少し言い方というものがあるでしょう?」

「くっ……! ねぇ生ゴミ、この女を黙らせなさい」

「……いや、それは無理な相談だな」


 桃花がさらに強い力で俺の制服の袖を掴む。

 普通に考えたら、正論を言ってる夏宮と暴言ばかりの桃花だったら前者の味方をするのは当然のことだろう。


「……秋山君、学級委員長の仕事が終わったら一緒に帰りましょう」

「……分かった」

「は、はぁ? コイツはあたしと一緒に帰る約束があるの! 夏宮は引っ込んでなさい!」

「あなたと二人で帰って、秋山君が病んでまた不登校になったらどうするんですか?」

「そんなの、大手を振って喜ぶわよ!」

「……秋山君、私と一緒に帰りましょう」

「そうだな。悪いが桃花、お前は……」

「……っ、うっ……! ひっ、うっ……!」


 桃花が泣き出してしまった。

 なんなんだこいつ。情緒不安定とかそういうレベルじゃないぞ。


「……私も少々意地悪を言ってしまいましたね。三人で一緒に帰りましょう」

「ふっ、うっ……はっ……わ、わがったわっ……!」


 こうして俺たちは三人で一緒に帰ることになった。

 勿論、夏宮が学級委員長の仕事を終えてから。


 通学路。

 夕日に照らされて町がオレンジに染まっている。


「秋山君、学校は楽しかったですか?」

「……疲れただけだったよ」

「そうですか」

「疲れたんなら、また不登校に戻ればぁ~?」

「春野さん、わざわざ煽らないでください。やっと秋山君が学校に来たというのに」

「アンタの胸を触って?」

「……! そ、それは……。秋山君を登校させるために仕方なく……!」

「今日だって、アンタの顔に生ゴミが顔をうずめてたけど」

「それも……」

「そうまでしてこの生ゴミを学校に来させたい理由は何?」

「えっと……」


 夏宮は黙ってしまった。

 結局、気まずい雰囲気の中で無言のまま俺たちは家に帰っていった。

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