第2話 試験開始とイエティ。

 翌早朝、洞窟の入口でコユキはフブキに手を振っていた。本当の試験の内容をコユキに告げることなく試験は開始された。どこで見てるか、聞いているか分からない山の神に本当の試験内容を伝えることは御法度で死よりも厳しい罰がくだるからだ。

まず始めに一人で山の頂上に行き、山の神がいる祠に挨拶をする。そして頂上全体に雪を降らせて約2〜3cm積もらせる。その次は下山しながら麓の村に向かう。

下山途中、登山道から白い毛で覆われた人のような大きな動物が2本の太い足で直立しコユキの前に現れた。コユキは恐れることなくふわっと体を浮かせ宙に浮く。そして大きな動物に––––––。


コユキ「イエティ、ここで何してるの?ちゃんと冬眠しなきゃダメでしょ!人間に見つかったらどうするの?危ないから早くおかえり。春になったら遊んであげるから」


イエティと呼ばれた大きな動物はコユキの言葉を理解し、直立した2本の足を地面につけ、のそのそと登山道から獣道へと帰って行く。

大きな動物の正体は熊だった。突然変異で白い毛になってしまったらしく、とても警戒心が強くてよく後ろ足を使い直立して周りを警戒しているようだ。時々さっきのように獣道から登山道に来てしまうので、コユキはいつも熊達が住む森の奥へと引き返すように言っている。

コユキが今よりも幼い時、登山に来ていた人が雪の降った日その姿を偶然目撃し、突然変異種の熊を雪男イエティだと呼び始めた。とフブキからその話を聞いて彼(熊)の名前をイエティと呼んでいる。

本物の雪男ユキオトコはコユキ達のいるこの山にいない、もっと寒く標高の高い山に住んでいるらしい。


イエティの遭遇で少し時間を取ってしまったが、無事に麓の村の前まで着いた。

コユキはまたふわりと宙に浮き、空から村全体に雪を降らし冬の始まりを告げる。この時村人達に見つかってしまうと試験失格と聞いていたが、村人達はまだ夢の中なのだろう起きる気配はなかった。


コユキ「よし、あとはまた山に戻って頂上まで登って山の神様の祠に終わった報告をするだけってネェネェ言ってた」


来た道を戻り再び山に入る。しばらく登っていると、山の真ん中あたりで突然ドーン、ドーンという地響きに近い銃声が2回聞こえた。すぐに近くの場所だと分かったコユキはもうダッシュでそこへ向かう。

息も切れに辿り着いた場所は山小屋だ。銃口から漏れるひどい煙に混じって血の臭いもする。山小屋のドアの入口でガタガタと体を振るわせ、怯えながらにライフルを構える登山家と2本足で立つイエティが向かい合っている。イエティの体にはライフルで撃たれた弾痕がくっきりと分かり、そこから白い毛が赤黒く染まっていく。

目の前の光景にコユキはカタカタと身体を震わせる。抑えられない力が溢れ出す、コユキの眼が紺色から銀色に輝き凄まじい妖力を放つ。


❄︎2話(完) 続く❄︎

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る