雪降らしのおしごと

砂坂よつば

第1話 山の神様は仰った。

 山の頂上にほど近い洞窟には雪を降らす妖怪、雪女の姉妹が住んでいた。

姉のフブキ(18歳)は山の頂上にある祠に向かって喋っている。側から見れば白い着物を着た、淡いクリーム色の腰まである長い髪をした若い女性が、そんな姿で山にいる時点でおかしい。それに加えて時折「はい、はい」と頷いているのでおかしさと怪しさ倍増である。すると祠の中から背の低い老婆の姿をした神がフブキの目の前に現れた。あまりにも近い距離の神からフブキは一歩後ろに下がる。


山の神『明日、お前の妹を試験させてもらう。よいな』


フブキは渋っていた。まだ6歳になったばかりの妹、コユキは最近自分の妖力で雪を作り出せたばかりである。だからフブキは山の神に反論した。


フブキ「ま、まだ早すぎます。どうか1年いえ、半年は待って頂けないでしょうか?」


山の神『待てぬ。明朝より開始じゃ、良き報告を待っておる』


聴く耳持たない山の神はすぅーと姿を消した。フブキの反論も虚しく試験は決行されことに。頂上を降りてフブキは自分達の住む洞窟へ帰って行く。

洞窟の入口から数m先からでも洞窟の中は見える。その中でコユキは手の平から雪玉を出し、それを作っては壁に投げての繰り返しをして遊んでいる。ボールではないから跳ね返ってくることがない。だから壁に当たるとすぐに崩れ落ちその場所は、少しずつ山のように積み上がる。

コユキの成長速度にフブキは目を疑った。私の時と全然違う。雪女には個体差あると、コユキを産んで1年後雪崩に巻き込まれた村人を助けて亡くなった母が言っていた。もしかしてコユキにはとてつもなく強い妖力を持っているのではないだろうかと不安に思い、洞窟の前で立ち止まる。強い妖力は何かの衝撃で自分では抑えられない程の力を出すからだ。もし、今、コユキの妖力が暴走してしまったら自分はどすればいいのだろうと考えてしまう。

フブキの帰りに気づいたコユキが駆け寄って来た。


コユキ「ネェネェ、おかえり。神様とどんなお話したの?」


ハッ!?っと我にかえるフブキはいつもの優しい顔でコユキに話した。


フブキ「明日の朝早くにね、コユキが一人前の雪女になったか試験するんだって」


コユキ「本当に?」


うん。とフブキは首を縦に1回振る。コユキはそれを見て両手を洞窟の天井に届きそうなくらい上に上げて喜んでいる。


コユキ「嬉しいなぁ。コユキね、早くネェネェみたいな立派な雪女になるのが夢だったの!」


フブキ「私のような雪女?」


コユキ「うん。ネェネェは綺麗で、優しくて……。それにそれにすごく雪を降らすのが上手で、サラサラな雪を作るんだもん!……コユキが作る雪はボタってしてて重いの。コユキはネェネェみたいな雪を作りたいのに……全然できない」


姉と同じものが作れないと落ち込み嘆くコユキをフブキは何も言わず、ぎゅっと抱きしめた。

この時コユキはまだ雪女のを知らない。


❄︎1話(完) 続く❄︎

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