幼馴染の冒険者パーティから追放された僕は、女神様が認める最弱だった

渡貫とゐち

世界樹へGO!


「聞いて損はないこと言ってあげよっか? 実は僕には特別な才能スキルがあって、きっとこれから覚醒すると思うんだよね。だから今の内に予約しておいた方がいいよ、のちのち、僕は引く手数多の人気者となって、受付さんのお願いごとを聞いてあげられないと思うからね」


「あーはいはい、寝言は寝て言ってくださいね。まあ寝言だとしても大目に見れるような発言ではないですけど。低レベルのあなたが覚醒する、ですか? ははっ、S級冒険者の背中にくっついているだけで、おこぼれを口を開けて待っているだけのあなたに、ひとりでなにができるって言うんですか。現実を見てください」


 書類仕事の片手間なのに、感情のこもったどぎつい意見だった。

 まるで僕が受付さんのことをモテない売れ残り女と罵った後の返事みたいに。そう心の中で思っただけなのに、受付さんは僕をキッと睨んだ。んん? なんも言ってないよ? 思っただけ。しかし耳ざとく(聞こえてないはずだけど)気づいたらしい。僕は目を逸らす。


「その反応……心の中でわたしをバカにしましたよね?」

「してないです。……でも、言われてもおかしくないくらいの酷いことを受付さんも言ってますよね?」

「わたしはいいんです。ギルド最弱のトラブルメーカーが良い思いできるわけがないでしょ」

「最弱って……さすがに……違うと思いますけどねえ」

「え?」

「え」


 受付さんはきょとんと。……分かってないの? とでも言いたげな、目を見張った表情で視線をきょろきょろとさせて、最後はきまずそうに目を伏せる。


「最弱ですよ。昨日今日の新人よりもあなたは弱いです」

「嘘だあ」

「本当です!」


 最弱かどうかを測るのは人の目だ、感覚だ。つまり主観である。

 一流シェフが作った料理をマズイと感じる人がいるように、良し悪しは人の好みで決まるものだ。僕の最弱という評価は、もちろん『強い』とは言えないけど、さすがにギルドで――この町で一番弱い、とまではいかないだろう。全員が決まって僕を最弱と呼ぶわけではないのだから。


「またまたあ」

「……はぁ。じゃあ、女神様に聞いてみたらどうですか? 真実だけを教えてくれる女神様は世界樹にいますから……いったことがあるでしょ? あ、その時はS級冒険者と一緒だったから……ひとりじゃ無理よね?」

「なめるなひとりでいってくる!!」


「待ちなさい!! あっ、ちょっとっ! これで死なれたらわたしの自殺ほう助になるじゃないの!!」



 受付さんの厚意でS級冒険者を護衛につけて、世界樹までやってくる。

 無口なS級冒険者は僕がたくさん喋っているのにまったく返事をしてくれなかった……けど、身振り手振りや「うむ」と相槌は打ってくれるので僕のことが嫌いというわけではないらしい。よかった、なにもしていないのに嫌われていたらショックだった。

 それともなにもしていないから嫌われてるとか?


 世界樹。

 大国ひとつ分の太さをした幹を持ち、その葉は巨大だ。

 近くで見ると僕たちサイズの葉が集まって大きな葉になっているようなので、遠目で見ているよりは小さい。それでも大きいけど。


 世界樹に近づけば近づくほど、棲息している生物は強くなっていく。最初は僕も、「いけるっしょ」と息巻いていたけど、僕ひとりだったら間違いなく途中で死んでいただろう。受付さんの厚意に感謝だ。


 護衛の冒険者の肩に腰を据えて、僕は楽ちんに世界樹を上がっていく。あ、今ドラゴンがいた。目が合ったけど追いかけては――ぅわ、きてるきてる! 後ろから大口開けて飛んできてる!!

 ぎゅっと目を瞑っている間に終わっていたようで、S級冒険者の大剣で一閃……、ドラゴンが落下していった。


「わあ、ありがとうございます」

「うむ」


 とんとんとん、とまるで階段を上がるように、色々巨大な世界樹の枝を渡っていく。

 そして大樹としてはまだまだ中盤なのだが、幹の中へ入ることができる入口に辿り着いた。

 厳かな雰囲気だった……まるで神殿の入口みたい。

 冒険者は、ここから先の護衛は必要ない、と(勝手に)決めて、僕の背中を押す。

 僕の首に下げられた小さな箱には、七色に輝く指輪サイズの宝石があって……女神様へ献上するアイテムなのだ。


 いつの時代も女性に渡すお土産は綺麗な宝石らしい。

 甘いものじゃダメだったのかな……。


「ここまでありがとうございます。じゃあ、いってきますね」

「きをつけろ」

「はい。でも、大樹の中には危険な生物はいませんよね?」


 冒険者が頷いた。

 だけど心配そうな顔をしている。

 そういうどっちつかずはやめてほしい、怖いんだから!


「女神、さまにだ……不敬は打ち首だぞ」

「またまた……。不敬なだけで殺すほど、女神様の器は小さくないですよお」

「…………」

「え、本当に?」


 本当にそうなら、今の僕の発言もマイナス評価になるんじゃ……。

 今更遅いけど、言ってしまったことは訂正できるけど、なかったことにはできないのだ。


「女神さまに、よろしく伝えておいてくれ」

「あ、はい」


 結局、なにがどう不敬になるのか分からないまま、大樹の中を進むことになる。



 長い長い螺旋階段を下りて、大樹の中なのに真っ白で明るい部屋が見え、足を踏み入れる――と、いた。


 下から上まで三メートルはありそうな、黒髪美人の女神様だ。

 色々とでっけえお人である。


「女神様、お久しぶりです、【モブロー】です」


「ん、知ってる、全部見てた。私に聞きたいことがあるのよね? いいわ、見てあげる。器と一緒に、懐だって私は大きい(深い)の。ほら、こっちにきなさい」


 やっぱり気にしてるじゃないか。でも、思っていたよりは元気そうでなによりだった。

 昔、彼(僕を追い出した最強の冒険者だ)と一緒に女神様に会いにきた時は、当然だけど彼ばかりが注目されていたから、僕との絡みなんてないようなものだった。

 その時、なぜか女神様は僕を見ておかしそうに笑っていたけど……結局、あれがなんだったのか、答え合わせはできていなかった。

 ちょうどいいし聞いてみよう、と思えば、女神様が言った。


「あなた、最弱よ。全人類、全てを見てもやっぱり最弱。だって将来性がないんだもの。今朝生まれた赤ん坊が将来発揮できる才能よりもない。過去未来現在を見ても、私が認める最弱が、あなたね――」


「冗談は顔だけにしてください、女神様」

「冗談じゃないわ。って、え? 顔だけに……? 不敬よね……?」


 戸惑う女神様が不敬でありながら僕を疑っている。不敬であってもあっさりと何事もなかったかのように言ってしまえば不敬ではなかったことにできるのだ。

 全ては自然な流れのままに。

 粒立てるな、僕。


「さて、女神様。この七色に輝く宝石をお渡ししますので、僕の才能を鑑定してください……最弱ではないですよね?」

「いえ、最弱よ」

「嘘つくな」

「嘘じゃないわ。あとっ、やっぱり不敬よっ、あなたの首を飛ばしてあげようかしら……っ」


 どこが懐も深いんだ。

 器も小さいし、度量も狭いじゃないか。これくらい笑って済ませてほしいものだ。


「女神様、見るだけじゃなくて、こう、大仰な儀式みたいな作法の上で測ってください。さらっと一瞥だけで答えを出されると疑うに決まっているじゃないですか。バカですか。僕がね」

「くっ、逃げ切りおって……」


 逃げ切れているなら僥倖だ。さて、女神様は仕方ないわねえ、と言いながら、僕の才能を鑑定してくれた。報酬を貰っておきながら嫌々やるのは失礼なのでは? しかし僕は指摘しなかった。懐が深いから。女神様と違って。


 儀式(本当に?)の途中、女神様が眉をひそめたけどすぐに表情を元に戻し、彼女から発せられていた白い光がやがてしぼんでいく……終わったらしい。

 これで僕の最弱がはっきりと分かる。


「うん、最弱ね」

「なんでだよ!」


「女神のスキルが認めた最弱があなたよ。悪いけど、パーティから追放されたからと言って、あなたの隠れていた才能が覚醒することはないわ。残念だけど。『戻ってこいと言われてももう遅い』……とは、あなたは一生言えないわ。諦めなさい」


「いや、お願いされたら喜んで戻るつもりだったんですけどね……もう遅い、とか言いませんよ、性格が悪いですね……」


 女神様が、今度ははっきりと顔をしかめた。


「不敬っ、不敬です!!」

「言いがかりですよっ、僕が一体なにをしたって言うんですか!!」


 先に言えば被害者面できると思ったら大間違いですからね!?

 女神様だってルールの下だ……平等。


 女神様だけ悪いことをしてもお咎めなしとはならない。


「お咎めを出すのは私なんだけどなあ……」

「女神様が悪いことをしたら僕がしっぺをしてやりますよ……めっ!」

「あらかわいい。……最弱で身の程知らずでわがままだけど、なんだか憎めないのよねえ」


 女神様が苦笑い。

 小さい人間が地団駄を踏んでいるのを楽しんでいるようだ。

 それを楽しめるなんて……やっぱり性格悪いじゃないか!



 ・・・おわり

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