第9話



9最終話

私の記憶は曖昧だった。


確かに自分はずっとアルフレッドと、ネイトと共に屋敷にいた。

けれど、よく思い出してみても、彼らと直接会話をした記憶はなかった。


ネイトを育てていたけれど、息子にお乳をあげたことはなかった。


そして、出産後、赤ん坊のネイトを一度もこの手に抱いたことはなかった。


確かに私は屋敷にいたのに、なぜか夫と抱き合った記憶がなかった。


私の言葉に反応した者はいなかった。


私は存在していなかったのだ。


「凍っていた間に、私は意識だけあなたとネイトのそばにいたの」


「意識だけ?」


「ええ、自分でも不思議なんだけど、私もアルフレッドの傍で、一緒にネイトを育てていたわ」


「そんなことって……あるのか……」


私はゆっくりと頷いた。


考えてみれば、不思議だなと思うことがたくさんあった。


皆の暮らしや、ネイトの様子をずっと見ていたが、ただ、私は見ていただけだった。


転んだ時に手を貸していたのは乳母のマーヤだったし、離乳食を食べさせていたのはメイドだった。

散歩でネイトと手を繋いでいたのはアルフレッドだった。


会話に参加しているつもりだったが、誰かが私に話しかけたり、私に対して返答をよこしたりはなかった。


アルフレッドは、強い想いや愛があると、そういう現象が起こるのかもしれないと言った。


「君の魂が自分たちのそばに存在していたんだと思うと嬉しいよ」


彼はそのことを自然に受け入れてくれた。


しっかりと治療し、体力がつくまでは屋敷には戻れないよと言われ、私は夫とマウリエ山のホテルでリハビリすることになった。10年間動かしていなかった体は、なかなか思い通りには動かなかった。


最初は歩くことができずに、車いすで移動をしていた。けれど、常にアルフレッドが傍で支えてくれ、リハビリに付き合ってくれたおかげで、徐々に日常生活ができるレベルにまで回復してきた。



「手紙……」


私は思わず、あの手紙のことを口に出してしまった。


「手紙?」


「あなたが女性に宛てた手紙を読んだの」


「私が女性に?」


ええ、と頷いた。


「私が女性に手紙を書いたことはない……けど、眠っている君に宛てて手紙を書いたことはある。宛先は私の屋敷だから、結局出していないけどね」


寂しさのあまり書いてしまったんだなと彼は笑った。


「愛情深い内容の手紙だったわ」


「ああ、そうだろうね。どこへいったのかな、屋敷の執務机の中にまだ置いてあるかもしれない」


私は、彼の誠実さを疑った自分を恥ずかしく思い、彼を信じきれなかったことに対する後悔が胸に押し寄せた。

私の目には涙が浮かび、彼の優しさと誠実さに対する感謝の気持ちが溢れ出した。


「とても素敵な内容が書いてあったわ。愛情があふれた手紙だった」


「君が喜んでくれるのなら、何度でも書くよ」


アルフレッドはそう言って私の額に優しくキスをした。



****************


愛する人へ



カレンがいない間、私はどれほど君を恋しく思ったか、どれほど君の存在が私にとって大切であるかを痛感した。

君の温かい手のぬくもり、優しい声、そして何よりも君への愛が、私の心を支えてくれた。

君と共に過ごした日々、嬉しい思い出も困難を乗り越えた経験も、そのすべてが私たちの愛の証だ。


どんな未来が待っていても、私は君と共に笑い、共に泣き、一緒に歩んでいく。


これからもずっと、君を愛し続けたい。どんな小さなことでも、君の支えになり、幸せを一緒に築いていきたい。私の心は、いつも君のためにあります。


私たちの未来には、たくさんの喜びと幸せが待っている。

共に新たな物語を紡いでいこう。

君の愛に感謝し、これからもずっと君を愛し続ける。





愛を込めてアルフレッド


*************************




*ありがとうございました。メリークリスマス                         


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