第6話 ファングボア
第六話 ファングボア
派遣されて来た見習い魔術師のアルマと合流して、初心者の狩場にやって来た。
見た目も可愛らしいファーラビットをしばきつつ、互いの実力を確認した。
その帰路につく際、謎の疲労感を感じたのだが茂みから大きな魔猪が出現した。
「勇者様、気をつけてくださいね、この魔物は【ファングボア】と言って、動きはファーラビットよりも遅いですが牙と突進による攻撃と、その体躯により体力もそれなりにありますので」
そう言うとアルマは魔法の詠唱を始めた。
魔兎よりも遅いならとピヨヒコも武器を構えて攻撃しようと思ったが、何故か身体が動かない。
その事に戸惑っているとファングボアが動き出して突撃してきた。
「あれ、俺の行動順なんじゃ!? ……がふっ」
体当たりでピヨヒコの身体が軽く吹っ飛ぶ、予想外の出来事でかなり痛い。
そして何故か今度は動けるようなので武器を構えて攻撃に移行する。
サクッ!
攻撃は当たるが思ったほど威力は出てないようだ。やはり何か変だ。
ファーラビットと戦った時よりも明らかに身体に力が入らない。
「いきます、サンダーボルト!」
詠唱を終えたアルマが魔法は発動すると鋭い雷撃がファングボアを直撃する。
魔猪はその電流で身体が硬直してるように見える。
「感電してスタンしました、勇者様、続けて行動してください」
アルマがそう言うと、再び詠唱を始める。
あれ、さっきは先にこの魔物が攻撃して来たから、今度もまたこの魔猪の行動ターンなんじゃ?
そう疑問に感じたが、ファングボアは今の雷の魔法の影響なのか痺れて何もして来ないようだ。
ピヨヒコは再び武器を構えて攻撃する。
ザシュ!
魔猪は避けることもなく攻撃が当たる。しかしまだ体力はあるようだ。
「勇者様、延焼する恐れがあるので少し離れてください、ファイアボール!」
「延焼? よく分からないけど分かった!」
先程の雷の魔法とは違い、今度は火の玉がアルマの持ってた杖の先から発現して魔物に直撃する。ファーラビットに対しても使ってた炎の魔法だ。
プギィィィ!?
燃え盛る炎にファングボアが苦しみながら呻き声を上げる。火の玉が爆ぜて炎が燃え広がる。
これが延焼か、体面に着いた火を消さない限りは継続的な火傷のダメージとかも受けそうだな。
しかしファングボアは身体をブルブルと振り回し火を消した。
そしてそのまま怒りに任せて突進してきた。ターゲットは再びピヨヒコだ。
「ええ、何で!? 今度は俺じゃなくてまた魔物の行動が先なの!?」
敵味方の行動の順番がよく理解出来ずに困惑していたら、魔猪の突進を正面から受ける。
が、今度は装備していた小盾でタイミングを見極めて受け止める。
ガキンッ!!
衝撃はあるが直撃するよりは遥かにダメージを抑えられているようだ。
「勇者様、魔物はもう瀕死のようです」
「よ、よし任せろ、これでとどめだぁ!」
サクッ
そう意気込み、剣を構えて跳びファングボアを斬り付けるのだが、思ったように力が入らずヘナヘナ~、とした剣筋になってしまい勢いがない。
魔猪は悲鳴を上げて傷口から黒い靄を噴き出してはいるが、まだ倒しきれてはいないようだ。
それを見てアルマが無言で杖を構え魔物に近寄り、ポコンと殴り、ダメージの蓄積でその場から動けなかったファングボアを見事倒す。すると魔猪の身体から黒い靄が霧散してそのまま消滅した。
戦闘に勝利しお互い目が合うが、何処か少し気まずい空気になってしまった。
「……役立たずでゴメンナサイ」
「え!? いやいや、全然そんなことないですよ、武器の扱いも巧かったですし、戦闘中の位置取りもよく理解して立ち回ってくれてたので、私も詠唱に集中出来ましたし、魔物の敵視を引き付けてくれてたのでやりやすかったですし、あ、あの、ありがとうございます」
立ち回りなどはなるべく意識して動いてはいたけど、褒められたので嬉しかった。
それと、アルマの魔法を見て気になった事があったので質問してみた。
「この魔法の攻撃って、もし味方に被弾した場合ってダメージを受けるの?」
「いえ、味方に誤射しても直接的なダメージはないですよ、意識して狙った場合は魔法や物理攻撃でもダメージを与えられますが、巻き込まれた場合は味方同士なら基本的には大丈夫です」
何か解せないけど、どうやら大丈夫なようだ。
「ただし属性攻撃による延焼や感電が起きた場合は味方にも影響があるので、注意する必要はありますが」
「まあ普通はそうだよな、分かった、教えてくれてありがとう、ダメージはなくてもなるべく魔法には巻き込まれないように気を付けて立ち回るとするよ」
俺の方はまだ剣での近接攻撃しか手段がないので、魔物と近付き過ぎるとアルマの魔法の妨げになると懸念したが、どうやら基本的には大丈夫みたいだ。
無事に戦闘が終わっても身体はダルいままなのだが、町に向かって歩きだす。
行動の順番で混乱したので、それをアルマに伝えたら今の戦闘の流れを復習する事になった。
「えっと、先ずは最初の行動でファングボアが勇者様に向かって突進攻撃を仕掛けて来ましたね」
「あ、それで思ったんだけど、さっきまではファーラビットよりも先に行動出来てたから、それで動こうとしたけど何故か魔猪の方が先に仕掛けてきて焦った、その後に攻撃した時もいつもよりも力が入らなかった気がしたし」
「それは勇者様がこの戦闘中“デバフ状態”だったからですね」
「デバフ?」
返答されたが言葉の意味が分からなかったので聞き返したが、どうやら状態異常のペナルティが課せられたらしく、そのせいで何時もよりもステータスが半減しているらしい。
どんなデバフなのか詳しく聞きたかったが、取り敢えず先に戦闘を振り返る事にした。
「次に私が唱えたサンダーボルト、これは雷属性の魔法で一定の確率で相手を感電状態にして行動を阻害する事が出来ます、連続で使うと抵抗力が増すので段々とスタンの確率は下がりますが」
【感電状態】は電流によって相手の行動を阻害してキャンセルさせる。そのまま感電すると痺れてスタン状態になり、次のターンを行動不能にして回避行動も妨げるらしい。しかし足元が水場とかだと、電流が水を伝い仲間にも感電の影響があるようだ。扱いには細心の注意が必要だな。
それで魔猪の行動を飛ばして再びピヨヒコの手番になった。
敵が電流で痺れていたので攻撃を避けられる事なく当てられた。
雷の魔法の他にも武器を使った技スキルや、敵が使う阻害行動とかでも行動をキャンセルさせる事はあるようなのだが、行動をキャンセルされた状態を【スタン】とも呼ぶようだ。
「それから今度はファイアボールですね、これも獣系の魔物には炎が弱点になるので大ダメージになります、ただし延焼は仲間にも影響あるので巻き込まれないよう注意する必要はありますが」
【延焼状態】になると炎によるダメージの他に火傷の症状を引き起こし、火属性の継続ダメージを受ける。木などに当たった場合も延焼はするのだが、不思議と燃え広がる事はなく自然と消えるとの事だが、煙で視界が遮られたりはするらしい。こちらも扱いには細心の注意が必要だな。
状況によって魔法を使い分ける必要がありそうだが、その判断はアルマに任せるとしよう。
「それでファングボアが延焼状態を嫌がって身体を振るわせ、消火してから勇者様に対して再度、突進攻撃してきましたね」
「うん、真正面から突っ込んで来たから結構焦ったな」
もし炎が纏わり付いても身体を振るわせるなどして、抵抗行動に成功すれば状態異常にはならずに延焼による火傷を防げるようだ。
【抵抗行動】は次の行動にはならず、状態異常が起きた時に抵抗して成功すると耐える事が出来る。その際には抵抗力も上がるので、連続で同じ魔法による状態異常は効きずらくなるし、環境などにも左右される。また状態異常の成功率や属性により受けるダメージ量は精神力が関係してるらしい。
それでそのままファングボアは突進攻撃に移行してきた感じだ。
「スタンが解除されたから、また魔猪の方がデバフ状態の俺よりも速く行動してきた訳だな、購入した盾があったから何とか直撃は防げたけど」
「ですね、回避に成功すればダメージを受けずに済みますが、無理せずに盾で受ければダメージはかなり防げますよ」
盗賊でも装備が出来る軽鉄のバックラーは小さめの丸い盾で、他の盾より性能は低いがそのぶん軽くて扱いやすい。戦闘時には片手が塞がるが、それでも守りは大切だ。
小盾の【バックラー】中盾の【シールド】大盾の【タワーシールド】と、盾には三種類あって、大盾は防御力は高いが重くて扱いずらいので職種によっても用途を使い分ける必要があるようだ。
アルマの話だと盾を専門に扱い、敵視を集めて仲間を守る“盾士”と呼ばれる職種もあるらしく、硬くて頼りになるけど、そのぶん扱える武器が少なく攻撃性能は落ちるようだ。
「その後は俺の行動順だったけど、倒しきれずに最後にアルマの杖でとどめになった感じだったな」
「そ、そうですね」
ピヨヒコは少し落ち込みながらも先ほどの戦闘の流れを振り返った。
魔物も瀕死の状態だと動きが鈍り、回避行動も殆ど出来ないようだ。
ちなみにファングボアからは、牙と大きな猪肉の塊を獲得した。
本来なら毛皮も獲れるみたいなのだが、延焼の影響もあり今回はドロップしなかった。
こうして確認すると戦闘の流れは良く分かったけど、やはり魔猪より行動順が遅くなった原因のデバフが気になったので改めてアルマに聞いてみた。
「それは、えっと、勇者様は、その、お腹が空いてたんじゃないかと」
「……え?」
◇
「このゲーム、まさか食事による空腹状態でのデバフまであるとは……」
ゲームを操作していた少年は、少し呆れながらピヨヒコ達の会話を聞いていた。
リアリティーを求める世界観のゲームなら、食事の概念もあるにはあるけど、正直RPGでそれをされても面倒なだけだとは思うのだが。
それでも食事によるバフの恩恵もあるなら上手く活用すれば、現状のレベルやステータス以上の能力を発揮するだろうし、忘れずに管理するしかないけど……、
空腹状態だと攻撃力と精神力、素早さに回避率まで半減するので流石にこの状態が継続するのはかなり不味い。取り敢えず町に帰ったらギルドの酒場で食事をする事にしよう。
それと仲間のアルマは思った以上に優秀だった。最初から習得してた固有スキル【アナライズ】による解析で敵の特性や残りの体力、更には弱点に至るまで常に把握出来るし、それに下位の属性魔法もいくつか使えるようだ。常時ライブラの魔法が発動してるようなものだし、スゴく便利だな。
そしてどうやら主人公以外の仲間はAlが行動を管理してるようで、直接指示も出せるようだが基本的にはその場に合った行動を自動で行うみたいだ。
大まかな作戦とか優先行動とかも変更が可能なののだが、思ったよりも細かく設定出来るようで、敵の種族や属性に合わせて使用する魔法やスキルを変更したり、HPやMPが何割か減ったら回復を行うなど、プレイヤーの自由に行動の優先順位を替えられる。
面倒なので初期設定のまま弄ってないけど、オートなら戦闘も楽だし別に問題ないだろう。
しょぼいAIだと変な行動をするのもあるから、その辺は注意しないとだけど。
有名なのだと即死耐性のあるモンスターに対して毎ターン即死魔法を連発するのとかもあったしな。
クオリティーには不満はないけど、設定が細かくて覚える事も多いのが難点だな。
見たことあるような設定も多いから、遊んでいて慣れれば問題ないとは思うけど。
それとアルマは何やら【導き手】とか言う、よく分からない称号を所持してた。
効果とか用途は分からないけどストーリーと関わってくる感じかな?
他にもキャラ付けなのか、あまり意味の無さそうな変な称号も持っていたし。
主人公の方も最初から【彷徨う者】の称号を所持してたんだけど、何か意味深だ。
レベルも主人公よりもアルマの方がかなり高めだし、このゲームの魔法は属性による状態異常も含めてかなり便利だ。まあそのぶん詠唱による行動のリスクもあるけど。
行動順は戦闘画面の上側に敵味方のアイコンが並んで表示されており、選んだコマンドによって、敵味方の順番がレールみたいに左右に変動するので思ったよりも分かりやすい。
敵の行動を遅らせる選択をして割り込みで回復したり、敵一体を集中攻撃したりも出来そうだ。
敵の残りの体力も、黒い靄のエフェクトによって瀕死かどうかの判断は出来るのだが、アルマが仲間になった事によって数値化されたから、より一層分かり易くなったな。
それにコマンドを実行する際には敵を中心にサークル状に移動出来るので、コマンド実行する前に主人公を動かして、仲間との立ち位置を調整して敵視を分散させたり、魔法や技スキルの種類によっては、範囲魔法や直線上に居る敵を複数同時に攻撃とかも出来るようだ。
でも敵の方も味方のターンに直接攻撃はして来ないが、警戒行動によって身体の向きを変えたり、距離を取ったりもあるので、毎ターン敵の背後に回り込んだりは出来ない仕様になってるみたいだ。
なので敵を中心にサークル状と言っても、実際は扇状くらいの範囲しか移動出来ない感じだな。
それと敵も攻撃前に移動する事があるのだが、森で狼の魔物の群れと対峙した時にピヨヒコを両サイドから挟む形で一度攻撃を受けたのだが、何故か“カットイン”演出が入ってクロス攻撃を食らったので少し驚いたが、行動順と立ち位置を組み合わせる事で【連携】が発動する感じだとは思う。
発動の条件とかはよく知らんけど、その辺の説明もギルドで講習を受ければ分かるかもしれない。
しかし連携なんてバトルに置いてはそこそこ重要そうな要素が特に説明もなく、しかも敵の行動で存在が露見するとか、ゲームとしてはどうなんだろうか。
相手が弱い魔物だったので大したダメージは受けなかったけど、カットインの演出自体は普通にカッコ良かったな。何かスタイリッシュと言うか、ハイカラな演出だった。
「……なんか色々なゲームの良いとこ取りしたような戦闘システムなんだけど、著作権的な意味で大丈夫なのか? まあ面白ければ別になんでも良いけど」
そんな事を考えつつ移動してたが、探索エリアの帰路でも何度か戦闘した。魔物から手に入れた食材はあるが、そのままだと使えないようなのでピヨヒコの空腹デバフが継続したままだったけど、仲間のアルマも居たので問題なく倒せた。
この【初心者の狩場】は群れで出現する魔物が殆ど出てこないようで、
暗くなったからか帰りの道中、何かコウモリの魔物のシンボルが出現してたしな。
ここまで遊んでみたが、このゲームは『探索パート』と『移動パート』に分かれていて、某大作RPGの様にキャラをそのまま操作して、外のフィールドを歩きながら移動する訳でもないようだ。
【探索パート】では城下町など移動してる時と同じで、キャラクターを背面のカメラで操作しながら歩いて、フィールドを探索して“シンボルエンカウント”によって戦闘が発生する。
魔女の森や、今居るこの初心者の狩場とかが相当する。
移動中は敵シンボルも見えてるので、プレイヤーの意向で戦闘を避ける事も出来るのだが、其々の魔物にはサーチ範囲があるようで、一定の距離まで近付くと反応してこちらに迫ってくる。
ファーラビットは何かピョンピョンと跳ねて寄って来てたけど、動きをよく見て避ければ普通に回避は可能な感じだ。とは言えさっきのファングボアの様に茂みや暗がりから唐突に敵シンボルが飛び出して来て、避けきれない事もあるのだが。
そして魔物と接触すると、戦闘曲に切り替わって、何とシームレスで戦闘が開始される。
戦闘フェーズに関しては前述した通りだな。
でも途中で見かけた蛇の魔物はこちらから避けるまでもなく逃げたし、さっき見かけたコウモリのヤツも近付いてみてもコチラを見向きもしなかったので、魔物の特性によって、行動パターンも違うみたいだ。いずれ経験値が多くて速攻で逃げるレアな魔物とかも出て来そうだな。
まあ個人的には普通のエンカウント方式の方が、避ける手間や面倒もなくて好きなのだが。
【移動パート】では王国から外に出ると、ワールドマップ画面に移行して、王国を拠点にマス目で広がり、それぞれのマスが街道で繋がっている。主人公を駒として俯瞰の背面アングルから眺めながら目的地を決めて、時間を消化して移動する。
簡単に言えば双六とかボードゲームみたいな感じで、城の南門から出て2マス進むと看板があり、そこから枝分かれして魔女の森と近隣の村に繋がっていた。
移動するには時間経過が伴い進むとそれだけ時間が経過する。基本的には街道を進むマス移動では魔物との戦闘は無いみたいだけど、各マス目にはランダムなのか何か条件があるのか、イベントも発生するようで、最初に魔女の森から帰ってきた時に看板の場所で商人と遭遇したのはその為だ。
馬車などを利用すれば時間短縮して目的地に辿り着けるようだけど、シナリオの都合なのかまだ利用は出来なかった。
それに夜時間になると敵の強さが変わるなら、もしかしたら夜間に強行移動すると、魔物の襲撃イベントとかで戦闘が発生する可能性もありそうだ。
更に、朝、昼、夕、夜、など時間パートの概念まであるようで、ゲーム画面の上の右端に時計のアイコンが表示されていて、タップしてみたら何か暦や月までも設定されていた。
もしかしたら経過日数で特別なイベントが発生する可能性はありそうだけど、魔王軍の侵攻とかのワードもあったし、あまり無駄にマス移動して時間や日数を消化しない方が良いのかも知れない。
制限日数で強制ゲームオーバーとかも最悪あるのかも?
マス移動での時間の経過の概要はまだよく分からないが、マスが色分けされていたり、街道とは関係ない隠しルートもあるようで、情報収集によって新たな探索エリアも解放されるみたいだ。
最初の看板を調べた事で、魔女の森と隣接の村がマップ上に探索エリアとして出現して街道マスが繋がり、アルマとの会話で初心者の狩場が出現した。
町での聞き込みでも幾つか探索エリアの情報を得たけど、まだメインクエストも序盤なので無駄に探索しても時間経過するだけなので、取り敢えずある程度ストーリーが進行するまで様子見だな。
地図とかもまだ持ってないから行ける場所も全然把握してないけど、食事デバフが移動にも反映されるなら、あまり闇雲に探索するのは危険な気がする。
護衛任務や遠征などで長距離を移動するなら、夜営にする為にテントとかも必要になりそうだし、食事の概念があるなら料理アイテムや、自分で食事を作るスキルなども必要になるかもしれない。
詳細とかはまだよく分からないけど、このゲームの移動はそんな仕様になっているようだ。
基本的には王国を拠点としてクエストの依頼を受けて、移動可能な場所を徐々に増やしながら、探索エリアや活動領域を拡げていく感じかな。
何かこっちの移動システムも他のシミュレーションRPGや、それ以外のゲームで似たようなのがあった気がするけど、てか色々と設定が多くて覚えきれないのだが?
とにかく面倒な要素だけど、これもう移動パートなんてマップと行けるポイントだけ表示して、目的地を選んでファストトラベルでもさせればいいんじゃないか?
ここまでリアルを重視したRPGだとは思わなかったが、町の外に出たらいきなりボードゲームのような画面になって少し戸惑った。
「簡易メモも一応は取ってるし、気が向いたら登場人物とかシステムをまとめて整理するかな」
無事に町まで着いたがすっかり日が暮れてたのでそのままギルドに向かう。
薬草の採取クエストの納品と手に入れた魔物の素材を換金を済ませてから、酒場で食事が出来るようなのでメニューを頼むことにした。
うん、ざっと見ただけでも20種類以上ある。ドリンクや酒類、更にデザートまであるんだけど、食事をする事で各種バフの効果を得られるようで、しかもレシピ付きで専用グラフィックまであるんだけど……流石にやり過ぎじゃないだろうか。
食事の概念もだけど、食材や料理の種類なんてこんなに必要ないとは思うんだが、料理人や美食家になる為の関連クエストでもある感じなのか?
「何かここまで細かいとスゴいを通り越して、普通に面倒だよな……」
◇
ピヨヒコの目の前には【兎肉のクリームシチュー】と丸パン、野菜サラダに飲み水がある。
思い返すとこの世界で目覚めてから口にしたのは苦い薬草と貰ったヒールポーションだけだったので、これが自分にとって初めての食事になる。
ファーラビットの肉はこの地域ではポピュラーな食材らしく、流通も多いので冒険者や国民にも好まれているようだ。
とは言えあの可愛らしい見た目を思い浮かべると、やはり少し罪悪感も生まれるのだが。
戸惑いながらも兎肉のシチューをパクリッ、と食べてみると、ピヨヒコはそのままガツガツと、食べる、食べる、食べる。
「う、うまーーい!」
柔らかい兎肉と野菜が溶け合って、それをクリームで仕立てた深い味わいが口の中に広がる。
確かな食べごたえで添えられた丸パンともよく合う。
嗚呼、何て美味しいのだろうか、料理の味にピヨヒコは感動した。
「ファーラビットのお肉は柔らかくて美味しいですよね」
テーブルを挟んで向かいに座っていたアルマが、同じ料理を笑顔で食べていた。
ここはギルドに併設された酒場。夕飯時なので周囲は冒険者達で賑わっている。
「アルマが言っていた需要って食材としての需要だったのか」
「ええ、そうなんですが……」
「?」
「ファーラビットは見た目が可愛いので食べるのを拒絶したり、狩るのを反対している人も中には居るんですよね、気持ちは分からなくもないですが」
「ふむふむ、魔物に対してそこまで思い入れを持つのも何か凄いな、魔物は魔王が生み出して使役してるとかも聞いたけど」
「あまり敵意のない魔物も居ますからね、弱い魔物を素材目的で狩るのは私も抵抗感はありますし、温和な特性の魔物に関しては、国やギルドの指定で狩るのを禁止されているのも居ますね」
「ふむふむ、温和な魔物も居るんだな、まあ敵意があろうがなかろうが別に乱獲するつもりはないけど、その辺は必要に応じてだな、可愛い見た目に油断してたら襲われて殺られたなんて洒落にもならないし」
「そうですね、その辺の戦闘の判断は勇者様にお任せします」
~♪
他の場所でもそうだが、この場の雰囲気に合った曲が流れている。
酒場に似合った賑やかで楽しそうな曲調だ。
よく見ると人族以外の種族も多い。トカゲのような風貌の冒険者に、小人のような種族も居るし、厳つい体格の髭もじゃなオッサン達が談笑しながら美味しそうに酒を飲んでいる。
それに何やら吟遊詩人のような風貌の若い男が演奏や弾き語りとかもしてるのだが、その側には観客なのか、大きな白い翼の生えた女の子が居た。
可愛いらしい容姿だけど、天使や悪魔とかもこの世界には居たりするのかな?
「ふぅ、食べた食べた、幸せだー♪」
「満足してもらえたなら良かったです、食事の管理も冒険者には必須ですからなるべく気を使ってくださいね、美味しい食事は活力の元なので」
「そうだな、今後も美味い料理を食べたいし気を付けるとするよ」
空きっ腹も満たされて力が漲ってきた。空腹デバフもこれで解除されたようだ。
薬草の納品も済ませて素材の換金もしたので、手持ちのお金も少しだけど余裕が出てきた。
牙や角に毛皮などの素材は、武具や装飾品などにも利用されるらしく、ギルドが運営する解体屋が隣接してあるのだが、魔物の肉などの食材に関してはどうやら扱いが別なようで、一般居住区にある専門の肉屋に売る必要があるようだ。
倒したワーキングウルフの狼肉に、ファーラビットの兎肉、それにファングボアの大きな猪肉の塊もまだ所持しているので、後でその肉屋にも寄る必要がありそうだ。
そして食事も済み、夜になったのでギルドが運営する宿場で宿泊する事にした。
「……」
そう言えば仲間にはなったけど、アルマと2人で一緒に泊まるの?
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