女神の帰還 2 呼び続けるもの

「どうして、撃たなかったのです?」

「どうして、撃たなかったか―――?」

疑問に瞳を向ける少女が居る。

 地下活動、といっていいなら、確かに帝国臣民としては反抗になるこの活動を続ける組織の中心となる位置で。

 地下組織の中心人物達がいま集うこの位置に立ち、あざやかな若草色の瞳で見返す少女。

 まだわかい。若すぎるといってもいい。

 年は、――十五か、六か。

 この惑星で、成人と認められるには十四の年を数えればいいが、それでもようやく社会に参加を認められる年になったといえるに過ぎない。

 だが、この少女は。

 臆することなく中心に立ち、質問者の瞳を見つめ返している。

 若草の瞳。

 氷と雪に閉ざされる四季を送るこの惑星に、奇跡にも似た緑の春を思い起こさせる瞳の色。金糸に成るかとおもわれる巻毛の見事さ、白磁の人形を思わせる愛らしい容貌。すんなりと伸びた姿勢の良さ、立ち姿さえ覇気とあざやかに彩る光を感じさせる。

 本当に地下に現在集っている――殆どの住居や集会に使われる場所は地下にある――為もあり、明るさは遠いはずだけれど。

 明るい光を、地上に日が射したとき、氷原が恐ろしいほどの強さに照らされることを思い起こさせる激しさを瞳に飼う若草。

 少女が、口を開く。

 若草の瞳で。

「撃てば、艦は落せたかもしれない。――けれど、皆も知っている通り、あれは宇宙勤務の艦。落せば、その爆発だけでこの惑星に回復不能の傷がつく。けれど、撃たなければ。」

あざやかな若草が射るように見詰める。そう、まるで其処に対する艦、帝国という敵があるというように。

「―――こちらの組織力を示すことができる。統制と、この抑制を。いま打ち落とすことも出来る力を示し、そして私達の勢力が持つ結束を示すことが出来る。―――交渉のテーブルに、帝国を就かせることが出来るでしょう。」

冷静に熱さを飼って云う少女の瞳に、質問者が頭をさげる。

 少女がそうして、一同を見渡す。

「その目的の為に、私達はいま帝国の前に姿を現した。――――十年前のように、一方的に略奪されるばかりではなく、強固な交渉者となり、卓に着く為に。」

総ての人影が少女よりも高い背を持つ大人であることがわかるが。

 視線が、取り巻く人々が見詰めるのは一人の少女。

 若草の瞳に鮮やかな金の髪。

 まだ細いその身を、取り巻く視線が無言の内に語っている。

 少女こそが、この場の主であるのだと。

「かならず、帝国の卓につけてみせましょう。帝国から送られて来る、――――。」

一同を改めて少女が見渡す。緊張と共に、その存在の名を口にのせる。

「調整官を、確かに卓につけてみせよう。」

あざやかな少女の若草に、一同が無言で礼を取った。腰を折り、膝を着き腕を胸前に折り、深く頭をさげる。

 輪の中に、中心に立ち、厳粛な面持ちで少女が礼を受け止める。

 どれほどの重圧であろうとも、少女に逃げることは許されなかった。いや、おそらく。

 逃げるという選択を思いつくことさえなく。

 唯、重さを。

 人々の思いを受けて、若草の瞳を見開き。

 少女は、其処に在る。

 忠誠を受け止める、唯一人の存在として。

「この、リ・ティア・マクドカルの名に賭けても。」

少女の声が、朗々と地下集会場に響き渡っていた。



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