第2話 このエルフ、扱いが雑
このエルフ、清廉な心構えどころか、騎士道精神すら持ち合わせていない。素手で制圧したのは、剣で生け捕りにするのは面倒、という気遣いでもなんでもない打算だ。武器すらまともに使わず、清楚に見えて言動が野蛮。
気絶したふりをして逃げるタイミングを見計らっていた一人の胸ぐらを掴み、つるし上げた。細腕のどこにそんな力があるのか、片手で大人の男を軽々と持ち上げる、相当な腕力だ。
「ひぃっ」
「どこの組のもんだ?」
地を這う低い声と共に吐かれた台詞は、貴族の嫡子以外が多い王都の騎士団に所属しているとは思えない。どちらかといえば、ゴロツキの輩である。
百年の恋も冷める粗野な男の態度を目の当たりにし、マルチーヌの恋心も儚く消え失せた。
本物のゴロツキは、美型エルフに凄まれて母猫に首根っこを加えられた仔猫よろしく見を縮こませて震える。
ゴロツキにとって、救いの声がかけられた。
「ノーカ隊長! 待った!」
第二騎士団のメンバーだ。ふたり人済で市中を回り警備しているのだが、ノーカと共に回っていた団員が近くに居た二人に声を掛け、急いでやってきたのだった。
彼らは第二騎士団に所属長するノーカ隊のメンバー。街中の見回りをしていたとき、たまたま悲鳴を聞いた。耳の長いエルフ、犬猫までとはいかないが人間よりは耳がよく、ノーカの耳にも届くと勝手に一人で飛び出していった。遅れて合流した二人が、隊長を必死に追いかけて来たのだ。
「借りにも隊長なんだから、街中堂々カツアゲなんて!」
「するかよ」
「あ、そうですね。隊長、飯にしか興味ありませんもんね……」
飯にしか興味がないから、他に使うアテもなく給料は金を貯め込んでいるのだろうな、という部下の発言。
安くて美味い飯屋開拓と、最近では――エルフのノーカの感覚でいう最近は十年ほど――飯屋の店主に気まぐれで教えてもらった、簡単な料理を自分でもしてみる程度の趣味にしか使っていない。野営経験も年季が入っているから、料理はできた。
食い物にしか興味がなくて金が貯まっているのは真実なのでそこには言い返せない。
「カツアゲなんてしたことねぇ」
「嘘は駄目です、嘘は。宝石強盗相手に、「そこでジャンプしてみろ」って飛ばせてたじゃないですか」
あれは、ポケットに他にも盗った貴金属や宝石が入っているのではないかとジャンプさせただけで、カツアゲではないのだが。絵面は古典的な不良のカツアゲと同じだった。
「無駄口叩くな。ディランは?」
「応援を呼びに行きました」
第二騎士団は王都の警備を任されている騎士団、捕り物があったときのために携帯している縄を使い、ゴロツキ共を拘束する。慣れたもので、素早く無力化できた。
「後は頼んだ。俺は先にコレを運んでおく」
ゴロツキ一人を第二騎士団に運び、目的や他にも仲間のうむ聞き出すのに尋問するのかと思いきや。
「きゃっ!?」
雑に肩に担いだのは、マルチーヌ・バルブーザ嬢だった。突然のことで、ジタバタと暴れるマルチーヌ。家族以外の異性に抱き上げられるなんて、まして荷物のように担がれた経験なんてあるはずがない。貴族の令嬢として、恥ずかしい行為だった。
暴れても身をよじって抜け出そうとしても、細いくせに鋼の如く強靭なノーカの腕から一向に抜け出せない。
「ちょっと、放しなさい!」
「キーキー騒ぐな、猿」
「なんですって?!」
「どっちかといえば、ノーカ隊長の方が猿っぽいんですけどね」
ボソッと部下の一人が漏らした。
ここまで来るとき、真っ直ぐ行った方が早いと建物の上へ登り、民家の屋根をピョンピョン飛び越えてやってきたのだった。それを見失わないよう、必死に追いかける部下はいつも苦労させられている。
隊長というのは部下を動かす立場だのに、残される部下に指示もせずに単独で動くものだから、百年以上経っても出世できないのだ。ノーカが団長になったら騎士団がノーカ一人に振り回され集団として崩壊する、とはこの国の初代国王が遺した言葉だ。
「ノーカ隊長が建物の屋根伝いに行くから、洗濯してたおばちゃんがビックリしてひっくり返ってたんですよ。怪我しなくても洗濯し直さなきゃならないなんて可哀想じゃないですか。洗濯は重労働なんです。自重してください」
「人命第一だ。屋根伝いに来なかったら、この猿は今ごろ攫われていた」
「さ、猿って言わないでよ!」
「人通りの少い路地裏が危ないのは平民の子供でも知っているぞ、お猿さん」
「エルフとはいえ、ただの平民なんですから。伯爵のご令嬢になんという物言い……」
不敬罪! なんて言われたら牢屋行きなのに。戦々恐々、青い顔でため息をつく部下を置いて、ノーカは軽やかに飛び上がった。恐怖でカチコチに固まるマルチーヌを抱えたまま。
二階の窓の手すりに乗り踏み台にして、そこから向かい側の民家の屋根へ上がる。風のように屋根を翔けた。
本日は天気もよく散歩日和。走るにはいい日だ。
「いーやぁー!!」
マルチーヌの絶叫がスラム街にこだました。
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