第2話 このエルフ、扱いが雑
このエルフ、清廉な心構えどころか、騎士道精神すら持ち合わせていない。素手で制圧したのは、剣で生け捕りにするのは面倒、という気遣いでもなんでもない打算だ。
気絶したふりをして逃げるタイミングを見計らっていた一人の胸ぐらを掴み、つるし上げた。片手で大人の男を軽々と持ち上げる、相当な腕力だ。
「ひぃっ」
「どこの組のもんだ?」
地を這う低い声と共に吐かれた台詞は、貴族の嫡子以外が多い王都の騎士団に所属しているとは思えない。どちらかといえば、ゴロツキの輩である。
百年の恋も冷める野蛮な物言い、態度を目の当たりにし、マルチーヌの恋心も儚く消え失せた。
「ノーカ隊長! 待った!」
騎士団のメンバーが二人、急いでやってきた。彼らは第二騎士団に所属長するノーカ隊のメンバー。街中の見回りをしていたとき、悲鳴を聞き、勝手に一人で飛び出していった隊長を必死に追いかけて来たのだ。
「借りにも隊長なんだから、街中堂々カツアゲなんて!」
「するかよ」
「あ、そうですね。隊長、飯にしか興味ありませんもんね……」
飯にしか興味がないから、他に使うアテもなく給料は金を貯め込んでいるのだろうな、という部下の発言。真実だからそこは言い返せない。
「無駄口叩くな。ディランは?」
「他の隊を呼びに行きました」
第二騎士団は王都の警備を任されている騎士団、捕り物が会ったときのために携帯している縄を使い、ゴロツキ共を手早く拘束した。
「後は頼んだ。俺は先にコレを運んでおく」
ゴロツキを一人運び尋問すると思いきや。
「きゃっ!?」
雑に肩に担いだのは、マルチーヌ・バルブーザ嬢だった。突然のことで、ジタバタと暴れるマルチーヌ。異性に、まして荷物のように担がれた経験なんてあるはずがない。貴族の令嬢として、恥ずかしい行為だった。
「ちょっと、放しなさい!」
「キーキー騒ぐな、猿」
「なんですって?!」
「どっちかといえば、ノーカ隊長の方が猿っぽいんですけどね」
ボソッと部下の一人が漏らした。
ここまで来るとき、真っ直ぐ行った方が早いと建物の上へ登り、民家の屋根をピョンピョン飛び越えてやってきたのだった。それを見失わないよう、必死に追いかける部下はいつも苦労させられている。
「ノーカ隊長が建物の屋根伝いに行くから、洗濯してたおばちゃんがビックリしてひっくり返ってたんですよ。自重してください」
「屋根伝いに来なかったら、この猿は今ごろ攫われていた」
「さ、猿って言わないでよ!」
「人通りの少い路地裏が危ないのは平民の子供でも知っているぞ、お猿さん」
「エルフとはいえ、ただの平民なんですから。伯爵のご令嬢になんという物言い……」
不敬罪! なんて言われたら牢屋行きだのに。戦々恐々、青い顔でため息をつく部下を置いて、ノーカは飛び上がった。恐怖でカチコチに固まるマルチーヌを抱えたまま。
二階の窓の手すりに乗り、そこから向かい側の民家の屋根へ上がる。
「いーやぁー!!」
マルチーヌの絶叫がこだました。
次の更新予定
2024年12月27日 00:02
ノーカ戦記 椎葉たき @shiibataki
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