第3話 ノーカのルーツ

 ノーカ・アーポルテ、現在第二騎士団の一個隊を任されている隊長である。御歳、百九十九歳、千年前後の寿命を持つエルフ族の青年だ。

 エルフといえば魔法だのに、ノーカの魔法は生活魔法程度、魔力のほとんどは身体強化に回っていた。魔法ができないのではないが、魔法は得意ではない。

 魔法が苦手なのは、幼少期の魔法学習に遡る。


 エルフは他種族よりも保有魔力が高く、高度で高威力の魔法が使えた。強い力を使えるエルフ故に、自分たちを律し力に溺れぬよう、子供たちに扱い方を教える。大きな魔力を持っていても、無闇矢鱈に誇示してはならないと。魔力を制限するため、魔法を子供のうちから習うのだ。

 種族性なのか素直なエルフの子供たちは教師の教えに従い、戒めを守り己の魔力を制御しようと真面目に励む。その中にあって、ノーカは納得いかなかった。使ってはいけないのに、なぜ魔法を練習するのか。

 もんもんと煮え切らない気持ちでは魔法の練習に身が入るはずもなく、エルフの教えが合わないこともあり、苦手意識が育ち、生活魔法くらいしか使えるようにならなかった。ちょっとした火を起こす、飲水程度の水を作る、体を清潔に保つ浄化魔法程度である。

 余りある魔力は行き場を求めて巡り、身体強化へとたどり着いた。本人の意思で強化しているのではない、行き場のない魔力が勝手に強化してくれている状態。なので、身体強化の魔法を使っているという認識は本人になかった。


 エルフの生活は野生的なノーカの性格に合わず、我慢ならなくなり、家出紛いにエルフの里を飛び出した。ノーカが四十代の時だ。

 最初から人間の町に生まれたのではない。森の奥深くのエルフの里生まれである。森は豊かで食べものが豊富、エルフたちの魔力で作った強力な結界で守られた、静かで安全なといえば聞こえがいい。質素で、禁欲的で閉鎖的、変化のない退屈な暮らしは、若いノーカには窮屈だったのだ。


 行く宛もなく、ふらふらとたどり着いた人間の町。

 ここまで来る途中、襲ってきた初魔物に、「これが森の外の世界か!」と興奮し、嬉々として力一杯グーパンしら、勢い余って一撃で仕留めてしまったそれが金になり、金がなくなれば魔物を狩り、なんとなく飯は食えていた。この頃のノーカは若かった。今も若いが、この頃は年齢を人間でいえば、無敵感で溢れるイキった年頃――十代前半の男子である。


 だけど、順調だったのは最初の数年だけだった。

 国が圧政を始め、税金が高くなり、魔物を売っても殆どが税金として取られ、手元に残るのはスズメの涙。この人間の国に愛着も未練もないノーカだ、食えなくなったら別のところへ行けばいいや、と楽観的に考えていた。


 町では税金が収められなくて次々店が潰れ、ノーカが目をつけて贔屓にしていた食事処もとうとう最後の一軒になってしまった。

 飯処『レイフ』。その大衆食堂の息子である少年は、小さな頃から優秀で人望のある人物だった。


 農家は税金代わりに収穫物を国に持って行かれ、平民に出回る食糧がどんどん少なくなってきている。飢えて亡くなるのも珍しくない。

 このままでは死を待つだけだと、少年は各町に呼びかけ、人を集めていた。少年の名は、オーバン・レイフ。若干十四歳の少年が興した、火種だった。


「ノーカ、今日のフライドチキン上手かったろ?」

「フライドチキン? アペプの肉だろ」

 アペプとは大蛇の魔物で、コカトリスならまだしも、見た目は鶏と似ても似つかない。見た目は。


「揚げ油も植物の魔物から絞ったヤツだな」

「バレたか」

「肉は鶏より美味い。が、油は駄目だ、トマトの葉を直接食った味がする。青臭ぇ」

「トマトの葉を食うなよ、毒だろ」

「人間が軟弱なんだ」


 エルフは人間よりも強い身体を持つ。毒に対してもそうだった。特に、植物系の毒は森で生きるエルフには殆ど無害、ちょっぴり刺激的な味で好む者も居た。

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