封鎖
「う、うそ……」
後ろから漏れた呟きは、今にも消え入りそうな程、弱々しかった。
バックミラー越しに映る少女は、両手で口を覆い、固まっている。
「コエビ君、もう一度お尋ねしますが……このトンネルを通らなければ、村には行けないんですね?」
「はい……なにぶん人口の少ない、小さな集落ですから」
僕らの前に広がる光景は、絶望的だった。
山間の間に伸びたトンネルの手前で、土砂崩れがあったらしく、荒削りの岩石により行手を阻まれてしまっている。
道中も何箇所か、ありとあらゆる理由により通行止めがされていた。
そこを地元民であるコエビ君の先導により、地図に載ってないような抜け道を使って、掻い潜ってきた訳ですが……。
「トオツグさん、どうします? 車一台分の隙間くらいなら、開けられると思いますけど」
コエビ君の隣に座るルコ君が、後部座席から身を乗り出し、正面の様子を見ている。
確かに彼女なら、出来てしまうだろう……しかし。
「やめておきましょう。何か作為的なものを感じます。コエビ君には申し訳ありませんが、また日を改めましょう」
『……そうしなさい。この数日間は、全国的な晴れ。その近辺で、土砂が崩れたなんてニュースも無さそうだ』
スマホのスピーカー越しに聞こえる上司の意向も、自分と同じようだった。
『コエビ、これが君の言う、祟りに該当するものか?』
「どうでしょう……村で起きてたものは、もっと小規模の……子供のイタズラに近しいものでした。それを祟りだって決めつけてたのは、一部の層だけで。私はそれより、村人の方が何かに憑かれてみたいな雰囲気でよっぽど……す、すみません脱線してしまって」
『いいや、参考になった。悪いが安全を第一に考えれば、今日はもう早急に全員撤収。ルコ、引き続き護衛は頼んだ。気を抜くなよ』
「は〜い、シノさん。お任せあれ」
「では鞠月神社に戻ります」
『ん、ご苦労さん』
――プツ。
「残念だったわね、コエビちゃん……あらそうよ、なんで思いつかなかったのかしら! 私のスマホ貸すから、お家に連絡してみる?」
「ありがとうございます……でも、大丈夫なんです。実は母と二人暮らしだったんですけど、その母も昨年……。それに知り合いの電話番号は覚えてなくて」
所在なさげな笑顔を作ることしか出来ない私を、ルコさんは何も言わず、ただ優しく抱きしめてくれた。
ふわふわとした髪が頬を撫で、優しい香りに包まれる。
うっかり泣いてしまいそうになるのを、唇を噛み締め、グッと堪えた。
「きっと、また来ましょうね」
「はい。ありがとうございます……」
故郷に背を向け、車は静かに発進した。
陽は落ちかけているから、戻った頃には真夜中かな、と。
座席に身を預け、オレンジ色に染まる空を眺めた。
……なんとなく、暫くこの山には戻ってこない気がした。
それが不謹慎にも、やけにホッとする。
初めて故郷を離れ、疑惑が確信へと変わった。
どうやら私……ここが好きじゃなかったみたい。
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