カナタの告白

由里

カナタの告白

 昼、木々たちは太陽に照らされ、エメラルドの輝きを放つ。

 夜、木々たちは浮き上がった陰のように、黒く迫ってくる。

 夜、白色の街灯が夜の闇を照らす。道標のように。

 昼、太陽に照らされた世界に、僕らは足を止める。道標のない光の世界は、僕らにとっては闇より不透明だった。

「僕らは太陽に向かって歩いているんだよ」

 コンビニの前に座り込むカナタは、手に持った缶チューハイをあおる。火照った顔で月を見上げるカナタは、僕にはどこか寂しそうに見えた。

「イカロスと同じだ。最後は焼かれて落ちて、死ぬ。人生と同じさ」

「僕らは死ぬために歩いているの?」

「それは違う。僕らの目的地の果てが、そこ、ってだけで、それ自体が目的なんじゃない」

 どう違うのか。考えれば考えるだけ、思考の糸は絡まっていく。

「そんな顔するなよ。ただの雑談じゃないか」

 カナタは缶チューハイに口をつける。ごくりとなる喉。首筋の汗が、服の襟首に流れていく。

 僕はその汗の行方を追うように、視線を下げていく。

「エッチ」

 え、と顔をあげると、カナタはふっと笑みを浮かべていた。

「いや違う。僕は、そのなんていうか」

「ははっ、何焦ってるんだよ」

「……からかうなよ」

 心臓が高鳴る。酒も飲んでないのに、顔が熱い。もしかして、僕はカナタを――。

「今日、父親を殺した」

 カナタはアスファルトへ視線を落とす。缶を持った手が所在なさげに左右に小さく揺れていた。

 カナタの言葉は僕の鼓膜を通して、胸にすとんと落ちた。

「そう」

「ああ」

「それで?」

「それでって?」

「どうだった?」

 カナタはその場に蹲る。

「吐きそう」

 そう。街灯の光をぼんやりと見つめ、僕は言った。カナタの黒いつむじが、よく見えた。

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カナタの告白 由里 @yuri-tatara

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