第2話 妹、弥生の行方

「もう一つだけ、教えてくだされぬか。」


「何だ。」


「京にいた頃、拙者の5つ下の妹が、他の2人の娘と一緒に、婚礼を前に搔き消えてしまいました。その前に、地面と空に丸い模様が現れたと実父から文がありました。何かご存じなかろうか。」


「人間どもが、魔法を使って異世界の人間を召喚することがある。膨大な魔力がいるので、滅多なことではやれぬが。」


「調べはつきませぬか。」




「それだけの金と権力を持つ者と言えば、権力者であろう。一時期、カーナ国のエルフや神界もやっていた。しかし、特定の人間を狙って召喚することは無理だ。単に、巻き込まれたというのが真相じゃ。」


「何故、そんな無茶なことを。召喚される側の意思を蔑ろにしてまで。」




「異世界から召喚される人間は、魔力を持ち特殊能力を得ることがある。その能力を自分の欲の為に利用しようとする輩やからがいる。稀に、他の精霊達が、召喚中の人間と接触することがある。何しろ、精霊の数は多い。特に水と森の精霊は。その時、加護を受ける。召喚後、彼らは、勇者とか聖女とか呼ばれることがある。地面と空に現れた模様と言うのは、召喚の為の魔法陣だ。」




「他の世界に召喚させられるということはありませぬか。」


「何事にも相性というものがある。少ない魔力で召喚できるのは、お主の住んでいた島国の人間しかありえん。島国の古には、真神とその子孫が住んでいた。つまり今でも神聖な塔や山がまだ幾つも残っている。召喚の儀式が行えること自体が奇跡に近いのだが、それはその山や塔の所以なのだ。」




「妹達も婚儀の式で、聖なる山の麓にある神社にいた時でした。拙者がここに来ることになったのは、偶然ではない気が致します。」


「達者で、暮らせよ。ああ、それと世界樹を頼む。この世界を維持するためになくてはならぬものだ。エルフに役目を与えて育てさせている。相当の魔力がいるから、覚悟しておくのじゃ。最後に、我の名を覚えておくと良い。太郎だ。」




世界樹ってなんだ。相当の魔力がいる?


別れる間際になって、重要なことを言われた気もする。


だが、今は生きることだ。




光の洪水から意識が再び闇に落ちた。

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