第1話 精霊王

与平は足が地につかない不安定な気分で意識を戻した。浮遊感がある。


ここはどこだろう。


何も見えない。ただ、燦爛たる光の洪水の中。




欄干から川に飛び込み、意識を失くしたのまでは覚えている。


ここは、黄泉かと思ったその時、声が聞こえてきた。




「間に合った。聞こえるか。」


「何者。」


与平は刀を抜こうとしたが、体の感覚が全くない。




「無駄じゃ。今のお前は、意識だけで実体がない。我は異空間を行き来している者じゃ。人は精霊王と呼ぶようじゃ。」


「神様ですか。」


「何もしない何も出来ない、お前たちの言う神など何の意味がある。どんな存在をも凌駕するのが精霊じゃ。ところで、お主は生きたいか。」


「当たり前でござる。死ぬにはまだ、早過ぎるでござる。」




「生きたいのなら、生かしてやる。しかし、お前の世界で再生することはできない。お前のいた世界にはマナがない。マナが足りなかったので、お前の意識と形態だけを転移させた。」




「マナとは何でござる。」


「術を発動するのに必要な魔力の素だ。魔素とも言う。力の根源のようなものだ。」


「違う世界なら、出来るというのですか。」


「そういうことだ。特に世界樹のあるこの異世界には時を選んで行き来できる。」




あの困窮生活が脳裏に浮かぶ。京に来て以来、常に飢えとの戦いだった。食うために用心棒を始め、仕官した時に抱いた武士としての誇りなどとっくに捨て去ってしまった。であれば、これは人生をやり直すいい機会だ。




「生き返れるのならそれで頼みたい。」


「わかった。では、再生させる。」


「再生すれば元通りの体になれるのでござるか。」


「なる。」


「感謝致します。」




「我が再生すれば、お主は、我の術を得ることになる。我の術を使いこなせるようになるかは、お主の能力次第だ。」


「術とは何でござる。」


「まあ、魔法と似ているのかもしれん。だが我の術は魔法の比ではない。」


「忝かたじけない。だが、いいのですか。そんな凄い術を貰っても。」


「我が再生するとそうなってしまう。お主が気にすることではない。しかし、異世界で再生させるというのに、随分落ち着いているのう。」


「元の世界の生活は厳しかった。未練はありませぬ。」




「これからは望む物は何でも手に入り、何でもできる。我の術には魔法と違う力がある。魔力がなくとも、相手の魔力を奪って、術を発動できる。」




「良くわからぬが、感謝致す。」


「お主はこの異世界で我の役目を引き継ぐことになる。それに、何処へでも行けるようになる。例え、他の世界であっても、自由に行ける。唯一面倒なのは、それぞれの世界はそれぞれの時間軸があり、しかも互いに連動も同期もしていない。つまり、他の世界の行きたい時代の時間を選んで行くことが出来ない。もちろん、何百回も試せば、出来るやもしれんが、マナが持たん。ただ、この異世界には時を選んで帰ることができる。」




「なるほど、前世の世界に行くことは出来ても、時代を選ぶことは出来ぬということですか。」


「理解が早くて助かる。」




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