03_02_病み系令嬢、令嬢どころか王女だった。

「キミ、知らない? べヴェリ王国って。このアレクトール帝国の、ずっと南にあるんだけど」


知らない、けど、それよりも……


「貴族どころか、王族なの!?」

「〝言っても〟な王族だけどね。あたしの国、王子が15人と、王女が18人もいてさ」


衝撃の身の上話しを、しかし彼女――アメリスシア王女は、まるでどうでもいいことのように、サバサバと語っていく。


「あたしは王女の中の15番目。女なうえに、下から4番目だから王位継承権とは全然無縁」


王位につくことはない身分だと、彼女は事も無さげに言う。

だからと言っても、王女様は王女様だ。

これは、無礼のないようにしなければ……


「その、自己紹介が遅れました。ナギサ=クロンタールと申します、アメリスシア王女――」

「敬語禁止」


うえ?


「キミ……ううん、ナギサはさ」


彼女は、少し不機嫌そうな声をつくると、


「あたしを、命の恩人に膝をつかせる性悪女にしたいわけ?」


むーっとした目で俺を見つめた。


「王女なんて、他人行儀な呼び方も禁止」

「いや、でも、それはさすがに――」

「アメリ」

「へ?」

「アメリって呼んで。あたしの兄弟姉妹はそう呼ぶから」


王族内の呼び方をしろと!?


「その、申し訳ないけど、こればっかりは――」

「命の恩人に命令させる、わがまま王女にしたいんだ?」


これ、すでに命令じゃない?


「……あらためてよろしく。アメリ」

「うん。よろしく。ナギサ」


彼女は静かに微笑んだ。

とても満足げに。


「ナギサ……うん。ナギサ、かぁ」

「えっと、俺の名前が、何か?」

「うん。気に入ったみたい。キミの名前。どうしてかな?」


いや、この質問はちょっとわからない。



アメリと談笑(?)をしていると、部屋のドアがノックされた。


「何かしら?」


アメリ、ふたたび堅い口調に。


「お客人のご家族をお連れいたしました。アメリスシア様」


知らない女性の声だ。

ドアが開くと、そこにはメイドさんに連れられた、ミリィとメリィの姿があった。

ふたりとも、俺よりやけに遅かったな。


「髪を拭いてもらってたのよ、〝お兄ちゃん〟」

「さっぱりしたのじゃー」


そっか。そういえば兄妹って設定だったんだよな。俺たち。


「キミ、妹さんが居たんだね。こんなちっちゃな」

「ああ、うん。ふたりは……」

「ネリィなのじゃー」

「マリィよ。えっと……」


おずおずと名前を尋ねたミリィ。

子供らしいあどけなさを見せているのは、ふたりの言うロールプレイの一環なのだろう。


「ふたりとも、このお方は――」

「アメリよ」


先に王女だとを知らせようとした俺の思惑は、あっさりアメリに潰された。

でも待てよ。

この世界を創ったふたりは、そもそも彼女が王族であることを知っているのでは。


「よろしくね、アメリお姉ちゃん」

「よろしくなのじゃー、アメリお姉ちゃん」


(ちょ、まさかの『お姉ちゃん』呼び!?)


自分たちが言ってたんじゃないか、ロールプレイがどうこうって。

ところが、


「うん、よろしく。ミリィちゃんに、ネリィちゃん」


微笑みながら挨拶を返すアメリには、気分を害した様子はなかった。

いや、むしろ上機嫌?

メイドさんのほうは顔が凍りついてたけど、アメリの「もう下がって結構です」という言葉に、おずおずと部屋を出ていった。


「ふふっ。可愛い妹が、いっぺんにふたりもできちゃった」


笑顔になるアメリ。

やっぱり機嫌がいいらしい。

昨晩の心を病みきっていた姿とは、かなり印象が違っている。


「お姉ちゃんも、とっても綺麗よ。その髪型もにあってるわ」

「すっごい美人なのじゃ」

「ありがと。こういう短髪って、あまり受けが良くないかと思ってたんだけど」

「そう? アタシたちの国にはたくさんいたわよ。ショートヘアーの女のひと」

「かわいい髪型のひとつなのじゃー」


無邪気に褒めてくれる姉妹に、アメリは、ますます、機嫌良さげに笑っていく。


「染めようかとも思ってるんだ。まだ迷ってるけど」

「あ、いいわね。インナーカラーとか似合いそう」

「メッシュを入れてもよさそうじゃのう」

「それ、昨日、ナギサにも言われた」


まあ、見てたんだろうしな、こいつら。


「アタシたちの国の髪染めの種類なの。髪の内側とか、一部分だけを染めるのよ」

「毛を痛めない、伝統の染め方があるのじゃー」


そしてふたりは、アメリにこんな提案を。


「あたしたちが染めてあげるわ」

「染料も手元にあるのじゃー」


手際のいいことである。


「ほんと? うん、お願いしたいな」


アメリもすぐに乗り気になった。


「キミの妹さん、借りるね」


=============


落とすためには、まず上げないとね。




上げてっから落としたほうが、綺麗な色の血が出るよ



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乙女ゲー世界のナビゲーターは、病み気味ダウナー地雷系令嬢のアメリさんでお送りしま……待って、その包丁しまって、刺すのはやめてお願いだから! 真汐さまり @mashisama

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