03_ヤンデレで、ダウナーで、地雷系な女の子は好きですか?

03_01_病み系令嬢、再会する。

 馬車に乗せられた俺は、両脇を執事服の男に固められながら、どこかへ移送されていた。

 正面には、短剣を常に握っているメイドさん。

 一切の抵抗のすべを封じた、完璧な布陣だった。


(一体、どこに連れていかれるんだ……)


 刑務所? 拷問部屋? それともまさか処刑台?

 不穏な想像ばかりが頭のなかに浮かんでは消え、浮かんでは消え、体の震えが止まらない。

 なお、ガクブルと怯えている俺と違って、


「見るのじゃミリィ。この馬車は魔導アシスト搭載じゃぞ」

「本当ねネリィ。曳いてる馬もちゃんといるけど、車輪そのものが動いてるわ」


 設定上の妹2名ネリィとミリィは、馬車を楽しげに満喫していた。


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 魔導アシストとやらの馬車に、たっぷり1時間ほど揺られてついたのは、大きなお屋敷だった。

 重厚な鉄柵の門が開放され、馬車を迎え入れた。

 屋敷の正面に馬車をつけるのかと思いきや、敷地に入ってすぐ、俺は馬車から降ろされた。

 ここからは、展開がやけにスピーディだった。


「先に使用人用の湯浴み場にご案内します」

「ご自由に、しかし手早くお使いください」

「いいから体を洗ってしまってください。代金の請求などはしませんから」


 こんな雑な説明のもと、まずはとにかく身を清めろと、浴場へと投げ込まれた。

 なお、湯浴み場は当然男女で別れていて、ネリィとマリィは女性用を使うことに。


「極力綺麗にしていくのよ」

「失礼のないように、なのじゃー」


 ミリィとネリィからも、こんな謎アドバイスが与えられた。

 このふたりが特等席で見たがるからには、重要なイベントが待っているのだろう。


(というより、たぶん、待っているのは、昨日の……)


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 体の汚れは丁寧に落とした。

 髪を乾かし、用意されていた服にも着替えた。

 そして、「こちらに来なさい」と執事たちに連れて行かれた先は、ある部屋の前。

 白髪の執事がドアをノックし、中から「どうぞ」と返事があった。


「失礼いたします、アメリスシア様。例の御仁をお連れいたしました」


 部屋の中に居たのは、清楚な衣装に身を包んだ、可憐な少女だった。


(やっぱり昨日の子……で、いいんだよな?)


 すぐに確信が持てなかったのは、オペラの格好じゃなかったり、目の隈が少し薄れてたからってだけじゃない。

 昨日は腰くらいまであった長い黒髪が、今日は一転、肩にも届かないショートヘアへと変貌を遂げていた。

 俺の世界でいうところの、ショートウルフってヘアカットが近い。


「このお方で、お間違いなかったでしょうか? アメリスシア様」

「はい、相違ありません。間違いなく、私の命を救ってくださったお人です」


 彼女は昨日と違って丁寧な口調で、しかし冷たい声色で、従者に言葉を返していく。


「ご苦労でした。あなたたちはもう下がって結構です」

「いえ、しかし――」

「下がりなさい」


 ズズン!


 突然に屋敷が震えた。

 比喩でなく、何かの衝突音みたいな鈍い音とともに、家の全体が振動したのだ。

 揺れていたのはほんの一瞬。


(地震……? いや……?)


 顔をこわばらせる執事たち。

 しかし、少女だけは動揺する様子を微塵も見せず、また執事たちも、すぐに表情を整えてから、恭しく頭を下げて、静かに部屋を出ていった。


 途端、少女の気配はすぐに緩んだ。


「ふふ。また会ったね」


 口元に微笑みを浮かべた少女の様子に、俺はドキリ。


「はい。えっと、失礼ですが、貴女は昨日さくじつの……」

「改まらなくていいよ。あの時みたいにフランクに接したほうが、お互い楽でしょ」

「いや、でも、さっきまでは」

「従者の前だったからね。らしくしとかないと、色々うるさくって」


 間違いなく、この子は昨日の、あの少女だった。

 ダウナー系というか、少し気だるそうにも聞こえる声と、静かで落ち着いた雰囲気の喋り方。

 けれど、そこには先程執事たちに見せていたような冷たさはなく、むしろフランクな印象を受け取れる。


「でさ。どう?」


 唐突な質問。

 たぶん、髪型のことを聞いているのだ。

 よく姉貴も、こんな感じの主語無し質問をしてくるから、この手の聞かれ方には割と慣れてたり。


「見違えたよ。昨日とは別人みたい」

「変えてみたんだ。思い切って」


 彼女は手を首元付近に動かし、短くなった髪を指でなぞった。


「前の男が好きだっていうから伸ばしてたんだけど、手入れも大変だし、思い切るなら、まずは長さからって」

「うん、似合ってるよ」


 こういう時はめておけばだいたい間違いないのも、姉貴で実証済みである。


「ちょっと意外。男の人って、やっぱりロングヘアーのほうがいいんだと思ってた」


 これはたぶん、この世界における共通の美的感覚なのだろう。

 ゴッデスの女性キャラって、メインキャラでもモブキャラでも、長い髪の人がほとんどだった。


「世の男が全員ロングヘアー至上主義者だけなんてことはないって。俺、ショートの女の子もかわいいと思うぞ」

「そっか。ふふっ、そうなんだ」


 彼女は静かに、とてもうれしそうに微笑んだ。


「じゃ、改めて」


 そうして、彼女は居住まいを丁寧に正し、続く言葉で、俺を大いに驚かせた。


「あたしはアメリスシア=ラスラ=ベヴェリラクサ。ベヴェリ王国の、王女なんだ」


 へー、そっか、王女なんだ……王女!?


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