01_10_双子神様、拉致る

【8月24日】



 そして1週間後。

 ふたりの神様はまんして戻ってきた。


「今帰ったのじゃー!」

「完っ璧に仕上がったわよー!」

「あ、おかえりー、ネリィちゃんミリィちゃん」

「おう、おかえりー。てか、始めてドアから入ってきたな」


 とびっきりの笑顔を浮かべた双子神様を、なんやかんやで暖かく迎え入れてしまう姉貴と俺。


「久しぶりの我が家じゃのう」

愛美莉えみり萌愛莉めありは? お昼寝中?」

「いや、起きてるよ。てか、我が家って」


 まあ、いいけどさ。


「いやー、ふたりがいないと、愛美莉えみり萌愛莉めありが寂しがっちゃって」


 姉貴が抱っこしてきた双子の赤ちゃんに、ふたりは笑顔で声をかけた。


「おー、1週間ぶりじゃのう」

「いい子にしてた? おみやげあるわよー」


 1週間ぶりの再会がわかるのか、愛美莉えみり萌愛莉めありも、きゃっきゃと楽しげに笑っている。

 なんなら、俺より懐かれてね?


「はいこれ。お人形さん。ふたり分あるわよ」

「ふたりと同じ、双子さんなのじゃー」


 ミリィネリィが取り出したのは、2体の人形。

 見た目はフランス人形っていうか、ビスクドールっぽい感じだけど、どこかちょっと違う気も。


「この間のファンブックのお返しなのじゃ」

「見た目と違って柔らかい素材だから、赤ちゃんにも安心よ」


 ちゃんとそういうところは考えてくれているふたり。

 ただ、俺と姉貴は一抹の不安を感じていた。


「ていうか、どしたの、これ? アンティークぽいっていうか、すっごい古風なお人形ね」

「お返しの品に言うのはアレだけど、高そう……だよな?」


 どこで手に入れた?

 ちゃんと、お金をちゃんと払ったのか?

 そんな心配がどうしても頭をよぎり、失礼だけども聞いてしまう。


「ある意味アンティークではあるわね。この世界から見ればだけど」

「あっちでは最新の流行り物じゃ。富裕層向けの商品じゃから、高価といえば高価なのじゃ」


 あっち?


「海外にでも行ってたのか?」

「うんにゃ、異世界じゃ」

「『行ってた』じゃなくて、創ってたの」


 異世界? 創ってた?


「ゴッデスの世界を再現しておったのじゃ。一大プロジェクトだったのじゃ」

「ちょっと時間かかっちゃったわね。この世界に割いてるリソースを使わずに色々やってたから」


 えーっと、つまり?


「わかりやすく言えば、ゲームの世界に行けるようにしてたのよ」

「え、なにそれ、すごい」

「てことでなのじゃ。凪沙よ、お主が記念すべきプレイヤーの1人目なのじゃー」

「へー、そうなんだ。俺が1人目……」


 1人目……1人目!?


「って、俺がやるのかよ!?」

「どうせなら音羽を連れていきたいんじゃが、音羽はゴッデス2のメインルートをクリアしておるからのう」

「まずはゴッデス2を全く知らない人間で、テストプレイをしたいのよねー」


 要するに、俺をていのいいゲームテスターとして、自分たちの創った世界ゲームの最終確認に使いたいようだ。


「設定資料集の制作者インタビューに載ってたのじゃ。ゴッデス1は、乙女ゲームの『お』の字すら知らない人間をテスターとして雇っていたのじゃ」

「そういう人に受けが良ければ、もともとの乙女ゲームファンにも受けるはずだって、制作陣の読みと賭けが成就したって」


 だから俺が適任だって?


「無理無理無理無理! 勘弁してくれ。俺、そろそろ夏休み終わっちまうんだから」


 不眠不休でゲームに時間を費やせるお前らとは違うんだ。

 まだ宿題も終わってないんだぞ。


「やる気ない奴にプレイさせたって、グダグダになるのがオチだろ? そんなことはふたりも望んでないだろ? な?」


 俺の力説に、ネリィとマリィは、最初こそ「むー」とむくれていたが、


「お、そうじゃ。いいこと思いついたのじゃ」

「奇遇ね、ネリィ。私もいいことを思いついたわ」


 急に満面の笑顔に変わって、俺に嫌な予感を抱かせた。


「凪沙が妾たちのゴッデスをクリアできたなら、この世界の破壊はやめてあげるのじゃー」


 ……は?


「クリアせずに投げ出したら、その瞬間に世界はお終い。どう? やる気でたでしょ?」

「ま、またそういう脅しをお前らは……」


 もう付き合っていられるかと、前みたいに話をねつけようとしたところ、


「待った凪沙、今回はチャンスかも知れないわ」


 姉貴が肩を掴んできて、何やら耳打ちを。


「ゴッデスは死に戻りゲー。何度もやり直して腕を磨いて、クリアを目指していくゲーム。あんなにもやり込んだネリマリちゃんたちが、そこの肝心要かんじんかなめをを外すとは思えない」

「いや、それのどこがチャンス――」

「いいから聞く! 失敗が前提のゲームだったら、頑張ればいつかはクリアできる。ふたりだって、せっかく創ったゲームをクリアしてほしいって、そういう願望が透けて見えてるじゃない」

「まあ確かに、条件は『クリアできたら』じゃなくて、『クリアせずに投げ出したら』ではあったけど……」


 古今東西、神様の課す試練ってのは無理難題であることが多い。

 が、これに関しては、成功するまで頑張ればどうにかなるっていう、ある意味で温情にあふれた試練なのかもしれない。


「だからって、俺なんかに世界の命運を託されても」

「ねえ、ミリイちゃんネリィちゃん、これって、凪沙しかプレイできないの?」

「大丈夫じゃ。こっちで音羽にも見れるように、ちゃんと考えてあるのじゃ」

「なんだったら、音羽にも出番があるかもしれないわ。あくまでこっちの世界でだけど」


 姉貴もサポートに回ってくれるつもりらしい。

 とはいえ、このふたりが創ったってところに、どうにも嫌な予感が……


「というわけで、今から行くわよ!」

「直行なのじゃー!」

「ま、待った。俺、そろそろ夏休み終わるし、せめて冬休みまで――」

「そんなもん、時間の概念も解き明かせとらん人類が心配することではないのじゃ」

「来ないんだったら、今すぐこの世界破壊しちゃうんだからね」


 下手な時間稼ぎは通用しない。

 もう、腹をくくるしかないのか……


「さあ、世界を壊されたくなかったら――」

「妾たちの〝ゴッデス〟を見事クリアしてみせるのじゃー」

「ああくそ、行けば良いんだろ行けば」


 ついに観念した俺に、双子の創造神はにっこり笑って手を差し出してきた。


「ゴッデスの世界へ」

「レッツゴーなのじゃー」


 その瞬間。

 俺の視界は、まばゆい真っ白な光りに覆われ、奇妙な浮遊感に包まれた。



【プレイヤーの転移を確認しました】


【Regot:Glorious destinyを開始します】



===============


さあ、ゲームの世界がはじまるよ!



……ようやく、ハジマルヨ?



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