01_09_双子神様、創り出す

【8月17日】



 で、翌日の朝。


隅々すみずみまで読み込んだのじゃ!」

「とっても理解が深まったわ!」

「うっそ!? もう全部読めちゃったの!?」


 ミリィとネリィは夜を徹して、2冊の厚いファンブックを余す所なく読破していた。


「よかったのじゃー。やっぱり創造は、明かされない部分まで凝りに凝ってこそなのじゃー」

「やっぱり色々と考えてるわね、クリエイターって。合理性だけだと面白さがなくなって、簡単に飽きがきちゃうのよね」


 ゴッデス制作の裏話なども多数載っていたファンブック。

 創造神なふたりには、読んでいて感じ入るところがたくさんあったらしい。


「国々の交易関係がかなり深く考えられていたのじゃ。中間商人を担う民族の設定とかが、よくできておったのじゃ」

「魔導科学の発達と帝国の版図急拡大の連関も、とっても緻密ちみつに練られてたわ」


 制作スタッフの中には重度の歴史マニアがいるらしいことは、1の頃から有名だったという。

 たぶん、その人物の仕業だろう。


「おかげで色んな謎が解けたわ。学園内での各国の王侯貴族のヒエラルキーとか、全部納得よ」

「最初は設定が雑なだけかとあなどっていたのじゃ。こんなに細かく歴史を想像できるクリエイター陣が、そんな詰めの甘さを残すはずがなかったのじゃ」


 ゴッデス1とゴッデス2。

 ふたつのゲームには、作品時間において200年間の開きがある。

 世界に仇なす魔王を討伐する物語の1と、アレクトール帝国が版図を拡大した後の世界を描いた2。

 作品内でも多くの関連が示されて、しかし同時に、ファンブック内でも解明されなかった謎の部分が、まだまだたくさん残っているそうである。


「たぶん、設定はあるけどわざと明かしていないのよ」

「ファンの間ではミッシング・リンクと呼ばれておるそうじゃ。未回収の謎を、有志がwikiに一覧化して載せているのじゃ」

「ぐ……私まだ見にいってない。ていうか、まだ見にいけない……」

「きっと、ファンに考察の余地を残してくれているんだわ」

「謎の断片を散りばめることで、ゲームに奥深さを出しているのじゃ」


 実際、ゴッデスのファンが集うサイトのひとつに、ミッシング・リンクの考察を専門とするものがあり、侃々諤々かんかんがくがくの白熱の議論が交わされているという。


「色んな考察が出てるわよねー。かなり丁寧に考えられてるし、どれも好印象がもてるわ」

「うむ! プレイした人の数だけ世界観が広がっていくのが、ゴッデスのいいところなのじゃー」


 ゲームはクリアし終えても、まだまだ楽しみは尽きないふたり。


「くー! この、とてつもなく置いてかれた感ー!」


 他方、完全に取り残されている姉貴は、ついに地団駄じだんだを踏み出した。


「ミリィちゃんネリィちゃん! ものは相談なんだけど、私がゴッデス2をクリアするまで――」

「アタシたちも負けてられないわね、ネリィ」

「おうともなのじゃ! 創造神もクリエイターだってことを、見せつけてやるのじゃー!」


 意を決した姉貴の声は、しかして、神に届かなかった。


「となるとじゃ。まずはどこまでの再現度を求めるかって話になるのじゃ」

「やっぱり原初ゼロから創るべきよ。制作陣も歴史の繋がりをかなり重要視してシナリオに活かしてたし、そこはアタシたちもまないと」

「うむ、異論ないのじゃ。〝人類の功罪が積み重なっての栄枯盛衰えいこせいすい〟というゴッデスのキモは、やっぱり押さえておかねばなのじゃ」

「地形と国境の形もそろえたいわね。でも地理って最初の最初に本気で計算しておかないとよ。集落形成と民族移動とかに関わってくるし……」

「埋蔵資源の量とか種類も重要なのじゃ。後々の国家間のパワーバランスが左右されてしまうのじゃ」

「入手方法が交易か侵略かで、未来の国境の形も変わってきちゃうしね。戦争の規模も問題だわ」

「過度な干渉はしたくないのじゃ。火種はなるべく自然発生するようにしたいのじゃ」

「未来に歪みが生じちゃったら面倒だものね。となるとやっぱり、魔導科学の発展度合いを調整するとかで――」


 ……何の話?


「え? 何? どうしちゃったのふたりとも」


 急に小難しい言葉を並べ始めたミリィとネリィに、俺も姉貴も、ポカーンと唖然あぜん


「して、ミッシング・リンクの解釈じゃが――」

「そこは偶発要素に任せても――」

「個人の魔法をどう定義するのか――」

「遺伝的要因に組み込むのが妥当だけど――」

「鬼畜難易度は世界観として残すべき――」

「それなら、せめてサポートしてくれる人材を――」


 やべえ。

 全然何言ってるかわかんねえ。


「うん。だいたいの方針は決まったわね、ネリィ」

「うむ。あとはやりながら、要所要所でテコ入れして探っていくのじゃ。ミリィ」


 俺たちの理解が追いつかないうちに、ミリィとネリィは、何かを決定し、そしてアクションを起こした。


「というわけじゃ! わらわとミリィは、今から少しだけ家を空けるのじゃ!」

「へ?」

「ネリィとふたりでやることがあるから、音羽、愛美莉えみり萌愛莉めありをしっかり面倒見るのよ」

「え? ちょっと――」


 止める間もないというのは、こういうことを言うんだろう。


「行ってくるのじゃー」

「期待しててねー」

「いや、何をさ!?」


 ピカッ!


 こうして、無邪気で爛漫な双子の破壊神は、突然現れた時と同じように、まばゆい閃光に包まれながら、突然に去っていった。


「……なあ、姉貴。『家を空ける』ってことは、また帰って来るってこと?」

「そう、なんでしょうねえ……」


 なんだろう。

 嫌な予感しかしねえ……


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