01_08_双子神様、また泣き出す

【8月16日】


「ぶええー、よがっだのじゃあぁぁ」

「うぐっ、ひぐっ、ふえぇぇ」

「お前らって、感受性高いよな。世界は簡単に壊そうとするくせに」


 まあ、神様の独特価値観は置いといて、だ。


 ネリィとマリィは、見事ゴッデス2をクリアした。

 それも、今回は俺はノータッチ。

 ふたりは1をクリアした経験を活かして、姉貴でさえ苦戦していた超鬼畜難易度のバトルクエストを、なんと一発突破。

 勢いそのまま、数日のうちにメインのアーノルド皇子ルートを攻略しきったかと思ったら、他の攻略キャラの全エンディングまで、わずか10日間で制覇した。


「よがっだのじゃあ。よがっだのじゃあー」

「うえぇ、ふえええー」

「すごいわねー、ネリィちゃんマリィちゃん。私じゃこんなに早くクリアできないわ」


 もはやふたりは、姉貴の腕前をゆうしのぐほど、ゴッデスの理不尽バトルを極めていたのだ。


「感動なのじゃー。感激なのじゃー。何がとは言えんが素晴らしかったのじゃー」

「詳しく言うつもりはないけど、音羽も予想してた隠しルートが、やっぱりあったのよ」


 姉貴は俊敏に反応した。


「あるのね!? やっぱりあったのね! てことはセシリアも幸せに――いや! やめてやっぱり言わないでー!」


 やかましいな、このオタク姉。


「うー、聞きたいけど、私も語りたいんだけど、クリアより先にネタバレ聞くことになっちゃうのはー」

「むむう、言いたいんじゃが、語りたいんじゃが、ネタバラシはー」

「我慢よネリィ。音羽の楽しみを奪うのは同じファンとしてやっちゃだめよ」


 実にめんどくさい奴らである。

 気持ちはよく判るけど。


 ・

 ・

 ・


「とゆーわけでじゃなー。妾もミリィも頑張ったのじゃー。なー、愛美莉えみりー」

「とっても素敵なお話しだったのよ。ねー、萌愛莉めありー」


 読み聞かせのように武勇伝を語るミリィとネリィ。

 聞いてか聞かずか、きゃいきゃいと喜ぶ愛美莉えみり萌愛莉めあり


 見事ゴッデス2を制覇した神様姉妹は、いつものように赤子姉妹とたわむれていた。

 ふたりは今回は、クリアしたから世界を破壊……という物騒な発想にはならなかった。

 それどころか、まだ2をクリアしてない姉貴への配慮まで見せている。

 いい傾向なのやら、そうでないのやら。


「あ、じゃあそろそろ私は買い物に行ってくるから、愛美莉えみり萌愛莉めありをお願いねー」

「いってら、姉貴。カレー粉が尽きてたはずだから、よろしく」

「おうよ。確か卵も少なかったわよね」


 我が家の買い物は、もともと当番制。

 愛美莉えみり萌愛莉めありが生まれてからは、もっぱら俺が行ってたけど、最近、腕の良いベビーシッターが現れてくれたことで、姉貴も当番に復帰したのである。


「いってらなのじゃー」

「いってらっしゃい、音羽ー」


 近所のスーパーとはいえ、外出の機会が増えたことで、姉貴もいい気分転換になっているようだ。

 ミリィとネリィは愛美莉えみり萌愛莉めありと仲良く遊んでくれてるし、俺も溜まってた夏休みの宿題に、ぼちぼち手を着け始めるとするか。


 ・

 ・

 ・


「たっだいまー」


 しばらくして、姉貴がパンパンに膨らんだエコバッグをぶらさげ帰ってきた。


愛美莉えみり萌愛莉めありは?」

「お昼寝中なのじゃ」

「ちょっと前に眠ったところよ」


 買ってきた食材を手早く冷蔵庫にしまうと、姉貴は、ミリィとネリィのもとに。


「はいこれ。ふたりにプレゼント」


 エコバッグの中から、何やらかを取り出す姉貴。


「ベビーシッターの……ううん、愛美莉えみり萌愛莉めありと仲良くしてもらってるから、その御礼」


 スーパーの買い物の品ではない。

 姉貴がふたりに差し出したのは、ややぶ厚めな2冊の書籍。


「あ、それって、姉貴も持ってる……」

「そ。ゴッデス1とゴッデス2の公式設定資料集。本編中で語られなかった情報がたんまり載ってるファンブックよ」


 姉貴から本を受け取ったマリィとネリィは、きょとんとしながら表紙を見つめた。


「資料集?」

「ファンブック、なのじゃ?」

「実は昨日ネットでポチってて。で、さっきスーパーの受取ボックスから取ってきたの」


 自宅受取にしなかったのは、姉貴なりのサプライズであったそうだ。


「姉貴、どっちも前に買ってたよね?」


 ファンにとって、公式の設定資料集なんてバイブルと同じ。

 ゲーム会社も必ず売れると踏んだようで、2のファンブックに至っては、ゲームと同一発売日だったほどだ。

 筋金入りのゴッデスオタクである姉貴が、入手していないはずがない。


「中古品を貸すんじゃお礼にならないじゃない。この2冊は、ちゃんとふたりにあげるための新品でなきゃ」


 ミリィとネリィはページを広げ、ペラペラとめくり始めた。

 途端、これがどういう本かを理解して、歓喜の声を上げていた。


「見るのじゃミリィ! エリエスワイズの校舎の間取りが全階イラスト化されてるのじゃ。制服デザインの没案とかまで載ってるのじゃー」

「2の資料も面白いわよ。200年の間に起こった歴史的事件とか、魔導科学の発展史とか、背景情報がぎっしりだわ」


 ふたりは食い入るように、2冊の本を互いにキョロキョロ。


「すごいのじゃー! ありがとうなのじゃー!」

「いいのこれ? 本当に良いの? やったー!」


 ファンにとっては垂涎の設定集。

 クリアしたての神様たちも、かなりお気に召したようである。


「2のほうって、姉貴もまだ見てないんじゃないの?」

「クリア前だからねー。こういうのって、隠しルートまで含めた全エンディングを見てから楽しむためのものだって、個人的には思ってるし」


 逆に言えば、全てのエンディングを達成したふたりには、これ以上ない贈り物だ。


「ふたりがエンディングの余韻に浸ってるなら、そっちを優先させたいなーって思ったんだけど、今渡して正解だったみたいね」

「ファンらしい思慮深さで」


 ・

 ・

 ・


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る