01_05_双子神様、憤る
公爵家のご令嬢、セシリア=ヴェイゼルフォード。
ゴッデス2の主人公が通うエリエスワイズ学園の首席生にして、アレクトール帝国の現皇子、アーノルド=ヴィンス=アレクトールの婚約者。
ゲーム的には、ことあるごとに主人公を妨害してくる、いわゆる悪役令嬢のポジションである。
「婚約者が、どうして皇子を殺そうとするのじゃ?」
「うーん、ストーリーのキモをネタバレしちゃうのは、ファンとしてちょっとなー」
こういうところは律儀な姉貴。
「お相手が皇子なんて、国が決めた婚約なんでしょ? セシリアって令嬢にとっても痛手なんじゃないの?」
「えっとね。これも乙女ゲーあるあるではあるんだけどね……」
姉貴は、ストーリーの暴露は避けつつ、一般論としての悪役令嬢概念を、ふたりに簡潔に説明した。
「つまり、嫌な奴なのじゃ」
「うーむ、その解釈はセシリアには……いやでも、一般的な悪役令嬢って意味合いでの理解なら……」
「愛のない婚約関係で、皇子様に愛想を尽かされちゃったのね」
「や、愛がないってことは……けどこれも……」
説明に
物語の核心を明かさない配慮が、見事に裏目に出ているようだ。
「ぐぬぬ……布教はしたい……けど、ネタバラシはしたくない……」
熱心なファンに特有のジレンマが、姉貴の苦悩を加速させる。
「でも婚約者ってことは、アーノルドって、最後はあの女と結婚しちゃうの?」
「えっとね……メインの皇子様ルートだと、ふたりが結ばれることはないでしょうね。これは乙女ゲームの必然って言ってもいいわ」
勧善懲悪とも、ご都合主義とも言えてしまいそうな、乙女ゲームのライバルキャラの宿命的結末。
「けどね。これは私の勘なんだけど、別のルート……ううん、隠しルートとかできっと、セシリアの救済も用意されてるはずだと思うのよねえ」
ネリィとマリィは反発した。
「こんなやつに救済なんていらないのじゃ。叩き潰すのじゃ」
「そーよ。あんな性悪女、無様に這いつくばらせたら良いんだわ」
憤慨する双子神様の様子に、
「うーん……この辺りは、1をやってるかどうかで心情が変わっちゃうわよねぇ」
姉貴はますます悩ましげな顔に。
「彼女はね、マルクスの子孫なのよ」
「マルクス?」
「誰なのじゃ?」
ふたりの質問に、姉貴は「ええっとねえ、1のネタバレにならないように説明すると……」とか言いながら、言葉を選んで答え始めた。
「マルクスはね、200年前の公爵家の嫡男で、その時の学園の首席生徒で、当時の皇子ミリアルドとライバル関係で……」
しかし、浅い説明を繰り返せば繰り返すほど、ミリィとネリィの頭の上には疑問符が重ねられていく。
「ぐぬぬ……こうなれば……」
姉貴はしばらく逡巡を重ねたのちに、唐突に「よし!」と声を上げた。
「
「は? 俺が?」
「たぶんふたりとも、ゲーム機に触ったこともないでしょ。あんた、どうせ夏休みの予定なんてないでしょうし」
そりゃあそうかもしれないけどさあ……
「のうミリィ。話の流れが見えんのじゃ」
「そうね、ネリィ。これの1って言ってるけど、前日譚のことなのかしら?」
ふたりの疑問を
「そうなのよふたりとも。このゴッデス2から
「な、なんじゃとぉー!?」
「な、なんですってー!?」
さる時代のアレクトール帝国。
辺境伯の子女である主人公は、貴族の学校であるエリエスワイズ学園へと入学。
持ち前の巻き込まれ気質が災いしたのか幸いしたのか、彼女はイケメンの皇子様や貴族子息たちと次々と仲良くなっていく。
それが、前作のゴッデス1である。
「まずはこいつをやってきなさい! セシリアにとやかく言っていいのは、1のエンディングを見てからよ!」
オタク姉、めんどくせえ。
ネリィとミリィも展開についていけず、最初は「うーん……」と悩んでいたが、
「まあ、ものは試しじゃな、ミリィ」
「そうね、ネリィ。どうせ退屈してたんだし」
・
・
・
こうして、退屈を持て余した双子神は、2にも優るとも劣らない鬼畜難易度のゴッデス1を、俺の部屋に
アクションパートでは何度も死に、探索パートでも些細なミスでクエストを失敗。
その度に世界を壊そうと
そして、1週間ほどの時間を費やし、彼女らはついにエンディングへと辿り着いた。
その結果。
「ぶええー、よがっだのじゃあぁぁ」
「うぐっ、ひぐっ、ふえぇぇ」
神は泣いた。
ボロ泣きだった。
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