01_04_双子神様、ハマる 下
姉貴が目指す時計塔。
その入口に現れたのは、漆黒のローブに身を包んだ少女だった。
ローブの隙間から、生気の消えた金色の瞳と、くすんだ銀色の髪が
画面に示されたキャラクター名は、【
「
「銀蝎の魔女とな?」
「このクエストのボスキャラよ! 正体は公爵令嬢セシリア。邪悪な存在に魂を売ってしまった、いわゆる悪役令嬢!」
セシリアの足元には、白銀に輝く魔法陣が展開されていた。
すでに攻撃体勢なのだ。
主人公のサーチ範囲に入ったからか、敵の頭上に魔法名が表示された。
【
瞬速の魔法光線が放たれたのは、それとほぼ同時だった。
「また撃ってきたのじゃ!」
一瞬で迫る銀光の一撃。
2発目を貰えば、間違いなくゲームオーバーだ。
だが。
「せえい!」
「やるじゃない音羽! 今度は避けられたわ!」
姉貴はこれを紙一重で回避。
すぐさまに時計塔へと駆け出した。
歓声を上げるミリィとネリィ。
「やるじゃん姉貴。発射と着弾、ほとんど同時だろ、アレ」
「モーションが読みやすくなったのよ。魔法名の表示って、技のエフェクトより早く出るから」
「凄っ。そんなので読んでんの?」
早いと言っても、その差はコンマ数秒に満たない。
ほとんど微差でしかないのだ。
それを姉貴は、明確に『読みやすくなった』と断じ、事実、的確に銀色の閃光を回避し続けている。
「なんの! うおりゃあ! まだまだぁ! てぇい!」
気迫が声に変換されるのは御愛嬌。
姉貴は
「いけるのじゃ! このまま一気に――」
「っ!? まずった!」
姉貴の声が急に
避ける最中にも入れていた
マップ上にはいつの間にか、敵のアイコンが増えていて――
「くっ!」
慌てて
直後、眼の前の道いっぱいに、大量の氷の
「そんな! 魔女以外の敵が来ちゃったの!?」
あと少し、ほんの少しでクエスト達成というときに、まさかの増援。
「逃げるのじゃ音羽! 留まっているのはまずいのじゃ!」
「でも、後退したら
だが、正面は氷の魔法弾のカーテン。
時間制限だってあるから、今から回り道なんてできない。
万事休すか。
しかし、
「甘いわね。このゴッデス、勝利の秘訣は――」
宮鹿野音羽に、諦めの2字は存在しない。
「――詰みそうなときは、飛び込んだほうが勝率が高い!」
姉貴は真正面、弾幕のカーテンめがけて
「無謀なのじゃ!?」
「
「黙って見てなさい!」
これは、ゴッデス1を制した彼女の、
「行くわよセシリア。今日こそは、その怨念を突破して見せる」
魔女の頭上に魔法名。
銀閃の魔法光線が、再び放たれようとしている。
その瞬間、姉貴は自ら、氷の魔法弾のひとつに体当たり。
「なぜじゃ!?」
「どうして!?」
石壁を砕く威力の魔法弾、
刹那、光線が主人公の真横を抜いていく。
「
「衝撃を利用したんだわ!」
そう、姉貴の狙いはこれだった。
氷の
体力ゲージは2割も残ってないけれど、氷塊の弾幕カーテンを、姉貴は果敢に突破した。
「どんなもんよ!」
セシリアの頭上に再び魔法名。
しかし、もはや姉貴には通じない。
紙一重、皮一枚の距離ながら、スタイリッシュな回避アクションで姉貴は魔法光線を躱しきる。
完璧に、セシリアの
動きが人間離れしていて気持ち悪……もとい、超人的なプレーである。
「おお! すごいのじゃ!」
「やるじゃない! 時計塔が見えたわ!」
ゴールまではあと
時計塔まで、このまま――
「一気に行くわよ!」
「行くのじゃ音羽!」
「行くのよ音羽!」
――だが。
【QUEST FAILED】
「へ?」
「え?」
「なのじゃ?」
突如、画面が暗転し、一切の操作がきかなくなった。
表示された文字は『QUEST FAILED』。
つまりは、ゲームオーバー。
「ああああああ!?」
「なあああああ!?」
「ええええええ!?」
「……クエスト失敗? え? なんで?」
後ろで引いて見たいた俺でも、事態がうまく飲み込めない。
ただひとり、何が起きたか正確に理解していた姉貴は、がっくりと
「くっ、アーノルド皇子が……死んだ」
わなわなと、痛恨の念を口から漏らした。
「あ、なるほど。画面外で味方キャラがお亡くなりか」
遅れて俺も理解した。
このゴッデス、基本的にはソロプレイ。
だけど今回は、攻略対象キャラも戦闘フィールド上に実は同伴。
で、そいつが死んだのだ。
「そ、そんなの無体なのじゃ!」
「そうよ! あんなに頑張ってたのに!」
「……いいのよ、ふたりとも。こうなる前にゴールに辿り着けなかった、私の未熟よ」
断っておくと、姉貴の腕前は全然未熟じゃないし、味方が雑魚なのでもない。
なんなら、今さっきタッグを組んでいた帝国の皇子アーノルドは、ゴッデス2の攻略キャラ陣の中でも屈指の高ステータス値を誇る強キャラの部類だ。
ならば、なぜそんな強キャラが死んだのか。
「悪役令嬢セシリアの怨念がね……敵全体に特殊なバフをいくつも与えててね……アーノルド皇子に対して特攻になっててね……」
意気消沈した姉貴は、驚きの言葉を口にした。
「敵キャラの攻撃、皇子への与ダメージが32倍になってるのよ」
「さ、32倍!?」
なんだよ、そのイカレ倍率は。
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