01_双子の神様、〝ゴッデス〟にハマる

01_01_双子神様、飽きる

【日本 S県 7月23日】



 その神様は突然に、俺の部屋、俺のベッドの上に現れた。


「ふむ、着いたようじゃな、マリィ」

「ええ。家の中みたいね、ネリィ」


 正確には、俺のベッドがあったはず・・・・・の場所。

 いきなりピカッと白い光が走ったかと思ったら、幼い容姿の……たぶんまだ10歳そこそこくらいのふたりの少女が、アニメのコスプレじみた衣装をまとって、ふわふわふわふわ、宙に浮かんでいたのである。


「うむうむ。座標は適当じゃったのに、幸先がいいのう」

「まったく、ランダムに転移なんかしないでよネリィ。最悪、地中とか海中だって有り得たじゃない」

「まあ、よいではないかマリィ。土でも水でも消してしまえる・・・・・・・んじゃからのう」


 彼女らが楽しげに話しているとおり、その足元にあったはずの俺のベッドは、脚だけ残して消え去っていた。

 いや、ベッドだけじゃない。

 ふたりの背後、家の壁にも丸い穴があき、下の床にも同様に大穴が空いている。

 壁も床も、そしてベッドも、まるで女の子たちを中心に球状に削り取られたかのように、きれいさっぱり完全消失。

 あ、今、かろうじて立ってたベッドの脚が、穴から1階に落ちてった。


「お、人間がおるのう、マリィ」

「あらホント。人間ね、ネリィ」


 この様子を、ポカンと唖然あぜんと眺めていたのが、俺、宮鹿野みやがの凪沙なぎさである。

 名前の響きと字面じづらから、よく性別を間違えられるが、れきとした男子高校生だ。


「あの……えっと……どちらさま?」


 始まったばかりの夏休み。

 自室で優雅に満喫していた、平々凡々なインドア派高校生。

 こんなにも非現実的な光景を前に、こんなにも間の抜けた問いを投げてしまったのはせん無きことと、なにとぞご理解いただきたい。


わらわたちは破壊神なのじゃー」

「でもって創造神よ。この世界、サクッと壊して創り直すわ。ネリィが飽きちゃったって言うから」


 理解の及ばない現象に直面した時、人は真っ先に、現実逃避型の思考に陥るものである。

 だがしかし、この宮鹿野凪沙は一味違う。


「……ええと、ひとまずさ、後ろの壁、どうにかしてもらっても?」


 家の大穴さえなんとかなれば、ギリギリで大事にはならずに済まないだろうか……なぁ?

 現実逃避に変わりはなくとも、一応の現状打破を図ろうとした刹那的消極的努力だけは、誰か認めてくださいお願いします。


「どうでもよかろうなのじゃ。家の壁なぞ」

「そうよ。どうせこの後、世界がなくなっちゃうんだから」


 ……現状、やっぱり打破ならず。


「えっと、『なくなっちゃう』ていうのは?」

「壊しちゃうわ。あんまり面白くないんだもの」

「飽いたのじゃー。退屈なのじゃー。今回の世界はもういいのじゃー」


 純真無垢な笑顔をしながら、なんか怖いことを言うぞ、この神様。


「じゃあ、ネリィ。さくっとやっちゃうわよ」

「うむ、マリィ。さくっとやっちゃうのじゃ」

「待っ!? そんなあっさりと!?」


 一瞬先の世界の危機。

 救ったのは、俺……ではなくて、


「うるっさいわよ凪沙! 愛美莉えみり萌愛莉めありが起きちゃうでしょーが!」


 ドアを蹴飛ばし乱入してきた、髪をライムグリーンに染めたやや強面こわもての女性。

 シングルマザーをやってる俺の姉貴、宮鹿野音羽おとは御年おんとし20歳)だった。


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