幻雪

セントホワイト

幻雪

 日本列島各地にて冬の冷たさは増していた。

 数十年に一度の、というお決まりの定型文をニュースキャスターがテレビで話すと共に体温をさらう冷気は防寒服を着ていても冷たい。


「はぁ……」


 首都近郊の街は滅多に雪が降らず、また降ったとしてもみぞれ程度で済んでしまうがそれでも寒いものは寒い。

 吐いた息は当然のように白くなり、体温を奪う冷気は当然のように背筋を震わせる。

 それでも街中は出歩けば人が歩き、若い女性は見ているだけで寒くなるような薄着のファッションに身を包みながら彼氏と歩いている。

 熟年の夫婦や友人なども含めた楽しげな喧騒の中を俺はたったひとつの目的地へと向かって歩く。


「…………」


 12月25日。

 世間はクリスマス一色に満ち溢れ、木々には電飾が飾られてまるで光る蕾が咲いたようだ。

 人々がその花を撮るためスマホを構えて写真を撮るのに夢中になるなか、その間を縫うように歩道を進む。

 寒い寒いと言いながら楽しげな雰囲気に溢れる中で、俺は温かなカイロが入ったポケットに手をいれることも出来ずに鼻を鳴らしながら進んでいった。


「……よっ。今年で、三回目だな」


 目的地に着く。

 そこには誰もいないが何となく挨拶だけは決まってしてしまう。


「今年も雪は降りそうにないな。あの日と違って」


 歩道の信号が鳴り響く交差路。ゆっくりと舞い散る雪。凍結した路面。スリップする車に撥ねられたキミ。

 思い返せば胸が今でもグッと締め付けられ、それでもここに来ることを止めようとは思わない。

 雪は降らない。しかし感情という雪だけが今もこの場所に降り積もっている。


「来年は降るのかな。そうしたら今度は……」


 歩道の音が変わらず鳴り響く中、ふと顔を冷たい風がふわりと吹く。

 顔を上げて空を見れば不思議なことに、雪が降り始めていた。



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